※仮想世界。
「雨」三部作、第一弾。
しくじった、と思った。
今日はうっかり朝寝坊して、天気予報を調べる間もなく慌てて家を飛び出して。
それが見事に完敗だ。
藍は雨をしのぐために飛び込んだ軒先で、ため息交じりに空を仰いだ。
暗い曇天から、惜しげもなく注ぐ大粒の雨。
身一つならば走って家に帰っても構わないのだけど、今日は鞄に大事な仕事道具のノートパソコンが入っているのだ。
一応ケースには入れてあるけれど、できれば不安なことはしたくなくて。
ついでに言えば、眼鏡が濡れるからやっぱりそれも嫌だ。
「ちぇー…」
兄に電話で頼むか。
それも考えたけれど、なんとなく気が進まなかった。
結局なにか行動を起こすでもなく、ただぼんやりと空を見上げて。
自分らしくない、と苦笑をこぼした。
「あれー、藍くん?」
「ほんとだ。一人?」
つきかけた溜息を飲み込んだ。
理由はひとつ、見知った姿が雨のスクリーンの向こうから、近づいてきたから。
咲いた、紺とピンクの傘の花。
白いワイシャツと、セーラー服がゆらゆら霞む。
「蓮君…に、姫?」
「久しぶり」
花の下、笑ったのは神様の子供である彼ら。
蓮と、風姫だ。
彼らは濡れた靴音を立てて、藍のすぐそばまで近づいてくる。
そうして状況を察したらしく、にやりと笑った。
「何、降られたの?」
「ドジだなー、藍くんは」
「…おれにそんなこと言っちゃう命知らずは、君たちくらいだよ?」
皮肉げに藍は返してみせるが、別に居心地が悪いわけじゃない。
その証拠に、すぐに力を抜いて笑う。
「そうだよー、今日珍しく寝坊しちゃってさ」
「あれ、藍くんって朝弱かったっけ?」
「姫君と一緒にしないでくださーい。今日はたまたま、だよ」
「…なんかその言い方引っかかるんですけど?」
むくれたように風姫が睨むのを、蓮と藍で笑って宥めて。
そういえばあの娘はちゃんと傘を持っていたのかな、と頭の隅で考えた。
ぼんやりと下の方でたゆたう思考。
それを打ち消すように、視界に華やかなピンクが近づいた。
「じゃー、仕方ない!朝寝坊した藍くんに、これを貸してあげましょう」
「…ひめぎみ?」
差し出されたのは、風姫の傘。
縁に蝶々の舞うそれは、彼らが近づくことなど考えたこともないような平和じみた色だと思う。
囲むように描かれたリボンが、微かにひらめいた気がした。
「…あのね、風姫。いくらなんでも、それは可哀想だと思うよ?」
「はぇ?」
「ピンクだし。蝶々だし。ついでにリボンだし」
割合おとなしく会話を聞いていた蓮が、苦笑交じりにそう言った。
風姫の手から傘を受け取り、代わりに自分の持っている紺色の傘を藍に差し出す。
お坊ちゃんが持つにしては、無骨な印象の傘だ。
「こっちの方がマシでしょ」
「あはは。ありがと、蓮君」
有難くそれを受け取った。
風姫の傘に二人が収まったのを確認して、藍は笑う。
「ありがと」
「いいえー、どういたしましてっ」
「まぁ、濡れたところで藍は風邪ひかないと思うけどね。パソコン濡らしたらいけないし」
「…蓮くーん?何その含み?おれが馬鹿だとか、そういうこと?」
「うん?そこまで言ってないよ」
軽口をたたき合う。
それでもすぐに笑って、軒先から一歩足を踏み出した。
すると、今までどこか遠くで聞こえていた雨音が近くなっったのが分かる。
「(…まぁ、たまには)」
良いかもしれない、こんな雨の日があっても。
くるりと傘を回して、藍は振り返った。
「よし、じゃあ傘のお礼にコーヒーくらいはおごってあげよう!」
「気にしなくていいのに」
「借りは作らない主義なのー」
そして、気まぐれみたいに。
寄り道して、お喋りをして。
青春みたいな好意に浸るのだって、きっと楽しいだろう。
やまない雨の中。
傘がふたつ、足音はみっつ。
くるり、くるりと傘が回った。
雨降りをテーマになんか書いてみようイン仮想世界!なお話。
でも梅雨にはまだ早い(笑)
まぁ五月雨だしいっか!みたいな強硬突破で行きます。
わたし個人としては雨は嫌いです。
髪が…髪がうねる…!!
天パが3割増な感じです、当社比で。
明日は晴れろ!と念を送っておきます(笑)
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