※仮想世界にて。
でも氷雨と風姫しか出てこない…申し訳ない。
仮想現実。
ゆめ、を見た。
「…(ここ、は?)」
カノジョ、氷雨はきょろきょろとあたりを見まわした。
水玉模様の壁が目に映って、ゆぅるりと首を傾げる。
覚えのない場所だ。
来たことは、たぶん一度もない。
そういえば、自分が今着ているドレスにも見覚えはなかった。
「(可愛い、けど…)」
胸元にあしらわれたレース、ふわりと幾重にも重なって踊る裾。
ぺたりと踏み出した素足に触れるのは、冷たくも温かくもない床だ。
言うのであれば、体温と同じもの。
ぺたり、ぺたりとあてもなく数歩足を進める。
「ん、」
そこで、ふと自分の腕が目に入った。
右腕、二の腕のあたりに、『Fe』と書かれている。
こすってもその文字は消えないから、タトゥーか、ボディペインティングのようなものであるらしい。
「…えふ、いー?」
なんだっけ。
こんな記号を、中学校か、或いは高校で目にした気がする。
ただあまり理科には強くなくて、こういった記号もすぐに忘れてしまっていた彼女にはこれが何を示すのかが分からない。
しばらく考えたが結局分からず、諦めて再び氷雨は歩きだした。
「…(それにしても)」
此処は、どこかしら。
気付けばいつの間にか水玉模様の床は終わり、黒字に白い花の描かれた場所に変わっている。
振り返るがその床と壁は見渡す限り続き、どこにも水玉なんて見えない。
「おじょーさんっ」
「?」
顔を再び、前に向けたその時だ。
氷雨の目の前、すぐ近くに立っていたのは――仮面をつけた、少女。
ただその声は氷雨も良く知る彼女、双葉 風姫のそれだ。
「…風姫、さん?」
「ふふ。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないね」
返ってきたのは、奇妙な返事。
意味が分からない、と首をかしげた氷雨の耳に、仮面の下から笑い声が届く。
見慣れない仮面のせいだろうか?風姫の声なのに、どこか白々しく冷めて聞こえる。
「ここは仮想世界の、仮想現実」
「仮想…現実?」
「夢じゃないわ。だけど、現実でもない。本来であれば、在り得なかった世界なの」
謳うような声は、何かを呼び起こすようでけれどまどろみの中から聞こえてくるようで。
強く目を閉じた一瞬、しかし次に目を開いた時に、風姫の姿は消えていた。
「え、」
『何をするも、しないも、氷雨ちゃん次第。この世界は、すべて赦してくれるから』
「ねぇ、風姫さん待って、わたしには、意味がっ…」
絞り出した声。
しかし、返事は返ってこない。
あるのは色を変えた床と、ひそやかな静寂。
風姫がもうここに居ないことを、確認するには充分だった。
「…仕方ない、か」
そっと深呼吸を、ひとつ。
そうして氷雨は、考えることを放棄した。
仮想世界の、仮想現実。
それならば、それを認めてしまおう。
ぺた、と彼女はまた床を踏む。
スカートを揺らして。
足に触れる冷えた布が、心地よいとぼんやり思った。
「…かそう、げんじつ」
呟いた声は、どこか甘い。
やわらかく微笑んで、それから彼女は先ほどよりも強く軽く、床を踏みつけて進む。
何が待ってる?
何が欠けている?
誰も知らない、誰にも見えない。
けれど、それが――この世界の、すべて。
在り得なかった世界は、いまこの掌の中に在る。
椎さんが素敵なイラストを描いてくれて、それにあまりにときめいちゃったよ…!!っていうお話。
ちょっと歪で、奇妙にねじれた雰囲気がたまらないのです。
皆さん今すぐ椎さんのイラスト見ると良いですよ…!!(宣伝)(笑)
とりあえず、一番常識人っぽい氷雨をヒロインにしてみた。
だって他のやつらが主人公だと、そもそも疑問に思わない気がしたから。
そんなわけで氷雨です、ごめんよ色んな意味で!
たぶん、続きます。
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