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書きたいものを、書きたいときに、書きたいだけ。お立ち寄りの際は御足下にご注意くださいませ。 はじめましての方は『はじめに』をご一読ください。
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    劇的回転木馬。

    ※仮想世界の仮想現実、ラスト。
    無駄に長いので注意!



    べん、べしょり。

    つんのめって思いっきり手をついて、ついでに膝を強打。
    …これは、痛い。
    しばらくはその体勢のまま、声も出さずに痛みをこらえていたのだが。

    「…ほん、っと…なんでわたしの周りの人間って地味に人の話を聞かない上に俺様ばっかなのっ…!?」

    せめて類友じゃないと思いたい、というか思う事にする。
    氷雨はひりひり痛む膝をさすって、orzのポーズから起き上がった。
    見渡す限り一面の黒で、自分の居る場所がどのくらいの広さなのかもさっぱり分からない。
    もっとも、さっきまでいた場所だって永遠に思えるくらいに広かったのだから、あまり状況としては変わらないかもしれないが。

    おそるおそる、視界を奪われた人間がやるように、彼女もそっと前方に手を突き出した。
    ふれるものは、ない。
    ゆっくりと、確かめるようにじりじりと右足を前に滑らせていく。

    「…(蓮さんは、ここに蒼さんたちが居る、って言ってたけど)」

    本当に、居るのだろうか。
    こんな、暗い黒い場所に、彼らが。
    こんな、あの人たちに似合わないような、世界に。

    考えてみれば、氷雨は彼らに黒が似合うと思った事がなかった。
    連想するのは、いつだって彼らの名前である「ブルー」。
    喪服の黒も、血の赤も、穏やかに笑う彼らからは想像がつかない。

    ひたりひたりと足を進めて、けれど歩み続けることがなんとなく怖くなる。

    「お嬢、」
    「蒼さん?」

    不意に、伸ばしたままの腕をとられた。
    一瞬肩が揺れたが、聞き覚えのある愛称に氷雨は知らず微笑む。
    自分のことを「お嬢」と呼ぶのは蒼だけだ。

    「良かった」
    「あぁ、探させたか?」
    「そう、ですね…探した、と言えば探したのかな」

    腕を引かれるまま、蒼について歩く。
    たぶんこの先に蒼の弟二人もいるのだろうという、根拠のない思いがあった。
    さっきの、蓮の言葉のせいかもしれない。

    「…ねぇ、蒼さん」
    「どうした」
    「ここ、結局どこなんでしょう?みんな…風姫さんと蓮さんは、仮想世界の仮想現実って言ってましたけど」
    「その通りだよ、ひーちゃん」

    応えたのは、藍の声だ。
    ただし、姿は見えない。
    けれどさほど驚かなくなっているあたりが、自分がこの世界に馴染み始めてしまった証かもしれないと氷雨は苦笑した。

    「こんにちは、藍さん」
    「ようこそ、ひーちゃん」

    笑う声には、あぁ覚えがある。
    安堵した氷雨の手に、唐突に何かが載せられた。

    「…?なんです?これ」

    指先に触れるのは、硬く冷たい何か。
    素材自体はなめらかだが、物体にはなだらかな凹凸がある。
    大きさは、両てのひらに乗るくらいで、軽い。
    爪で弾くと、かつ、と硬質な音がした。

    「…つけて」
    「つける?」

    聞こえたのは青の声。
    つける、というキーワードを手繰り寄せて、氷雨は自分が何を手にしているかを理解する。

    「これ…仮面?」

    おそらくは、風姫がつけていたような。
    氷雨はゆっくりと仮面を持ち上げて、顔にあてた。
    まるで誂えたようにしっくりとはまった仮面は、指で触れていたときと同じく冷たい。

    「…あれ、」

    仮面を付けて、氷雨は眉を寄せた。
    別に明りが在るわけではないのに、自分の腕の先に居る、蒼の姿が見えた気がしたのだ。
    数度瞬きをすると、それはさらに鮮明になる。

    「(…仮面の、せい?)」

    どんな技術だろう。
    首をかしげて、視線をスライドさせた。
    蒼とは逆の、ちょうど対角線にあたるくらいの場所に居るのは青。
    藍は向かい側、少し離れたところに居るようだ。

    「…」

    けれど、ひとつだけ違和感。
    どうしてか三人が着ているのは、真っ黒な喪服。
    この暗い空間で何故一瞬でそう思ったのかは、氷雨にも分からなかったが。
    それでも、三人が纏っているのは死者を弔うための装束だと、すぐに理解した。

    「…どうして、」

    貴方たちには、似合わないのに。
    悲しい気持ちで、氷雨は思った。

    貴方たちに、そんな色は似合わない。
    纏うべきは、もっと鮮やかな、目を奪う世界の始まりの色。
    なのに、どうして――。

    「…俺たちは」
    「殺し屋、だからな」

    見透かしたような言葉。
    それを聞くのが、怖かったのかもしれないと彼女は思う。
    本来であれば重なることのなかった世界。
    その理を捻じ曲げてここに居るのだ、事実を突き付けられるのが、怖かったのだ。

    それを、聞きたくなくて。
    だから、この世界を作り上げたのかもしれない。
    仮想世界の、仮想現実。
    狂ったように巡る、奇妙なこの国を。

    「…、」

    氷雨の腕の中。
    いつのまにか抱えていたのは、みっつの仮面。
    腕を真っ直ぐに伸べて、囁くように言う。

    「…つけて、ください」

    仮面を。
    この世界を、存在させるために。

    笑った声は、すぐ近くで聞こえた。

    「…りょーかい、」

    軽くなる腕。
    おぼろげな視界で、三人がそれをつけたのが見えた。
    誂えたようにはまる仮面は、綺麗に彼らの表情を隠す。

    「!」

    その時だ。
    突然真っ暗だった部屋に、明かりが灯される。
    眩しさに強く目を閉じた。

    「…な、んですか…?」
    『ようこそ、仮想現実へ!』

    届いたのは、華やかな声。
    薄く眼を開けると、自分が居たのは拾いパーティー会場だったことを知った。
    飾り付けられたホール、壁際のテーブルに並んだ豪華なごちそう。
    そしてその場所に居るのは、三兄弟と、さきほど別れた風姫と蓮。
    それから――優だ。

    みんながそれぞれ、仮面をつけて。
    見えない顔で、それでも笑っている。

    「ここ…」
    「行こうよ、ひーちゃんっ」

    藍が駆け寄って、氷雨の腕をとった。
    動く景色、一層明るさを増して、そこはひどく楽しげな色を映す。
    はしゃぐような音楽、この世界に居るのは、氷雨が愛した彼ら。

    ――あぁ、大丈夫。
    だって、世界はここに在る。

    「…なんなんですか、もう」

    言いながら、氷雨は笑った。
    くすくすと零れた笑いは、その場所を満たして。
    あぁどうしてだろう、どうしてこんなにも、幸福だと思ってしまうのかしら?
    自分でそう思うくらいに、氷雨は楽しかったのだ。

    「遅かったね、氷雨」
    「…優さんこそ。どちらに居たんですか?」
    「氷雨のすぐそば、だよ」
    「わたし?」

    その言葉に、安堵の気持ちがこみ上げる。
    そうか、傍に、そばに居たんだ。
    わたしの、近くに、いてくれたんだ。

    仮想世界。
    ここは歪で、不安定で、けれど彼らが望み愛した場所。
    それがきっと、願った答え。

    「…ねぇ、わたし『マルスの君』ですって。可笑しいでしょう?わたし体力には全然、自信なんてないのに」

    笑ってこぼした言葉。
    藍が振り返り肩を揺らす。

    「ひーちゃんに軍神は無謀だよねぇ」
    「でしょう?」

    向こうの方では、蓮と青が何かを言い合っては風姫と蒼にたしなめられている。
    いつの間にか馴染んですらいる光景は、心を撫でて広がっていくようだ。

    きっと、目が覚めたら。
    忘れてしまう、この鮮やかな愛おしい光景を。
    だけど、それでも。
    祈るこの瞬間は、嘘じゃない。

    「…ねぇ、氷雨」
    「はい?」

    優がわらう。

    「俺の役割はね、『人工王子』なんだって」
    「なんていうか…そのままと言うか…」
    「失礼なこと言うなぁ。…でもね」

    近づけた顔、音楽は遠ざかる。
    ぴしり、と微かな音を立てて、見つめた優の仮面に小さなひびが入る。

    「え、」
    「御伽噺なら、王子様が目覚めさせたお姫さまは幸せに暮らすはずだけど。俺は紛い物なんだ、氷雨を現実に返さなきゃいけない」

    仮想現実ではない、ただの現実へ。
    優の仮面のひびが、広がっていく。

    「…それで、人工?」
    「うん、ごめんね」

    すでに音楽は鳴りやんでしまった。
    さざめくように聞こえていた、青たちの声も聞こえない。
    温度が下がった気がして、氷雨は身震いする。

    ぱりん、と優の仮面が割れた。
    彼の頬には、王冠を逆さまにしたような絵が描いてある。
    逆さまの紛い物である、人工王子だからだろうか?

    優の指が伸びて、彼女の仮面を外した。
    合わせた剥き出しの額は、酷く冷たい。

    「おはよう、氷雨」
    「…おはよう、優さん」

    そして。

    「…おやすみなさい(そしてさよなら)仮想現実」

    呟く言葉。
    そこで意識は、闇に沈む。



    「…」
    「あ、おはよひーちゃん」
    「目が覚めたか?」
    「珍しいな、春日が寝るのって」

    ぼんやりした意識、聞き覚えのある声は、三兄弟のもの。
    ゆっくり頭をめぐらせれば、蓮や風姫の姿も見える。
    ついでに、自分に肩を貸してくれていたのは優だ。

    「…おはよう、ございます」
    「疲れてたんだねぇ、気付いたらうとうとしてたから、寝かせといたの」

    風姫がそう言って差し出してくれらミネラルウォーターを、ゆっくりと飲む。
    掠れた喉にそれはひりひりと染み込んでいく。

    「…わたし、寝てましたか」
    「うん、眠り姫みたいだった」

    笑う蓮の顔を、どこかで見たような気がした。
    ゆめを見ていたのかしら、そう考えるけれど、夢の欠片も思い出せないことに気付く。

    『忘れてしまうから』
    『丁寧に――』

    それは、誰の言葉だろう。
    だけど、幸福な夢だった気がするのだ。
    思い出せないのに、不思議なことだと思うけれど。

    「…かそう、げんじつ」
    「何か言った?氷雨」
    「いえ、何も」

    わらう、微笑む、ほどけるように。
    理解したのだ、ようやくすべてを。

    だってここは、いつまでも仮想世界だから。
    重なり合った世界の、筋書きのない物語。

    紡がれる物語が、くるくると廻り続ける世界に愛を告げよう。




    「ドラマチック・メリーゴーランド」をタイトルにしたかったけど長過ぎた件。

    久々の更新…?や、そんな久々ではないんですが。
    ここちょっとの間パソコンに触れもしないという、凜さんにしてはあり得ないことしてました(笑)
    これもね…ほとんど書けてたんですよ…(言い訳)

    仮想現実、は一応これがラストです。
    いろいろ詰め込んだ感満載ですが、個人的には満足!
    楽しかったです、こういうお話を書くのは。

    …書きたいことは多々あれど、パソコンさまがフリーズしそうなので、この辺で。
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    年齢:
    33
    性別:
    女性
    誕生日:
    1990/10/10
    職業:
    学生。
    趣味:
    物書き。
    自己紹介:
    動物に例えたらアルマジロ。
    答えは自分の中にしかないと思い込んでる夢見がちリアリストです。
    前向きにネガティブで基本的に自虐趣味。

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