――夢を、見たんだ。
「…ごめん、ね……」
それは、ひどくうつくしい夢だった。
真っ白な細い指が、僕の首筋にふれる。
ゆる、ゆると脈を確かめるように動くそれは、驚くほど優しい。
その手つきが普段と何一つ変わらなさすぎて僕は少しだけ笑った。
「ごめん、なさい…」
瞳につくられた海。
長い睫毛が揺れて、新しく涙の道を頬に描く。
嗚呼、そんな風に泣かないで。
大丈夫、分かっているよ。
君が悲しんで、罪を感じる必要なんてないんだから。
「…いいこだから、」
告げると、悲痛な顔で君は僕を見た。
あぁ、どうしてかな上手くいかないね?君には泣いてほしく、ないんだけどな。
だって、君には光をこぼすような微笑や少し拗ねた横顔の方がずっと似合うのだから。
ぱたりぱたりと、涙は冷たい床に弾ける。
「あたし…あたしは、化け物だから…こんなカタチでしか、君と一緒にいられないの」
涙声に、頷く。
うん、知っているよ何もかも。
君が本当はこの世界を愛したかった事も、そして本当はこの世界で僕と生きたかった事も。
できることならばずっとずっと、此処で、一緒に。
ささやかで愛しい願い、だけど世界はそれを認めなかったんだ。
「ごめんなさい…!」
幼い子供のようにただただ謝りながら、彼女が泣き出した。
首筋に置かれた手が小さく震えるのが分かる。
細く白い手。
破壊しか生まない、哀れなそれ。
だけどたったひとつ、僕がこの身を命を委ねてもいいと思える手だ。
僕はその手に自分のそれを重ねて、そっと力を込めた。
「え…?」
「良いよ、」
短い承諾。
彼女の顔が歪む。
うっとりと僕はそれに微笑みかけた。
「良いよ――殺して」
「っ…!」
ぴくり、手が震え。
けれど僕はそれを離さない。
ゆっくりと力を込めながら、確かに笑った。
かちあった視線の先。
君の唇がなにかを言いたげに震える。
それを赦さず、僕は言葉をつなげた。
「愛してるよ、世界中のだれよりも。君が僕を終わらせるなんて、最高の幕引きだ」
泣き濡れた瞳が瞬いて、漆黒に狂気を重ねた。
ぱちり、瞬いたそれが翡翠に塗り替えられるのを理解する。
僕の、僕だけのうつくしい死神よ。
君の手でどうか、僕を終わらせておくれ。
「…ごめんね、」
――愛してる。
彼女の唇がそう動いたのが僕の最期の世界だった。
(耳の奥、響き続けるそれは、)
彼と彼女。
ミクシの過去作品を改稿して引っ張ってきました。
リサイクル万歳。
こういう雰囲気が大好きです。
ほんとはもうちょっと明るい後半があったんですが、こっちの方が雰囲気あるかなと想ってばっさりカットしてみたり。
でもカットしたらすっごい救いのない話になった(笑)
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