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書きたいものを、書きたいときに、書きたいだけ。お立ち寄りの際は御足下にご注意くださいませ。 はじめましての方は『はじめに』をご一読ください。
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    空っぽの神殿

    ※カレとカノジョ。
    考えすぎなのは、誰でしょう?



    「…感情が、なければよかったのにって思いません?」
    「うーん…時と場合に、よるかな」
    「あぁ、そうですね。その通りです」

    わたしはそっと笑う。
    別に、何かが可笑しくてとか、そんなことではないのだけれど。
    そうして口にしてから、こんな風に議論を持ちかけるふりをしてでもわたしはこの人に甘えたかったのだと気付いて苦笑する。

    あぁ本当に、弱くて脆くて。
    わたしの精神は、どうにも思うようには働いてくれない。
    もっと冷静で、それこそ感情なんてなくても良かったのと思うのと同時。
    感情がなければ、彼の傍に居てこんな風に微笑む術さえないのだということも考えた。

    見透かしたように彼は微笑んで、わたしの手を取った。

    「また、何か考えているの?」
    「考えている、というか…」
    「悩んでる?」
    「くだらないことばかり考えて、迷っている、というのが適当かしら」

    もう一度、わらう。
    今度は明確に、自嘲の為に。
    それに気付いたのだろう、先輩は咎めるような眼を向ける。

    「くだらないことって?」
    「例えば、人間の感情とか」
    「人間の感情は、くだらないこと?」
    「少なくとも、今のわたしにとっては」

    言葉にしながら、わたしは泣きそうになる。

    あぁ今だってそう。
    この感情だって明日になったら色を変えていて。
    ほんの一瞬のことであるはずなのに、どうして耐え難い苦痛のように感じるのだろう。
    そしてわたしは、どうしてそれを感じようとしてしまうのだろう。
    考えたところで、変わってしまうのに。
    結局のところ、心を砕くだけ無意味かもよとどこかで声がする。

    痛い。
    だから、これを亡くしてしまいたい。
    痛いと思うのは、感情?だったら、それを亡くしてしまいたい。
    だけど、その痛みを掬い上げているのもわたしの感情なのだ。

    分からないまま、迷走を続けている気分。
    子供みたいに、泣いてしまいたいとどこかで思う。

    そしてもっと驚いたことに、痛みを享受し続けたら救われると「わたし」が思っているのだ。
    救われる、例えば誰に?
    わたしは神様の類は信じていないし(そう言えばあの紅い瞳の彼と、翡翠の瞳の彼女。彼らも神様を信じていないと言っていた。自身がその存在の証であると、言ってもよさそうなものなのに)、救済なんて決めるのは当人だと思っている。
    なのに、それなのに。

    わたしは未だに、祈りが人を救うと夢を見たがっている。

    「…ごめんなさい」

    気付いたら俯いていた。
    声を振り絞ったわたしの髪に触れて、目の前の彼が首をかしげた気配がする。

    「どうして謝るの」
    「いえ…ちょっと、情緒不安定みたいなんです」

    祈りが人を救うのか。
    祈りを捧げられた相手が、そのだれかが自分の為に祈ってくれたという事実に対して感謝して、心が救われたと感じた時にはじめてそれは救済になるのだろう。
    祈りだけでは、祈っただけでは願っただけでは、きっとだ誰も救えない。

    そして、わたしの祈りではどう足掻いたって人は救えないことも分かっていた。

    「声が揺れてるね」
    「ごめんなさい、」
    「ううん、怒ってないよ。ただ、少し心配かな」
    「…心配?」

    君は自虐趣味だから、そう言って彼は微笑む。
    ぎこちなくそれに笑みを返して、確かにそうだと胸の中だけで納得した。

    祈りが人を救う。
    そう願って、信じて、だけどわたしにはそれが出来ないと突き放して絶望する。

    たぶん、どれもこれも。
    わたしがまだ、許しを乞うている証拠だ。
    泣きそうな気分のまま、絶望的な答えに立ち尽くす。

    「無理に考えて、答えを出さなくても良いよ。水面が凪ぐのを待ったって、悪だとは思わないけど」
    「…わたしが、思いたくても?」
    「俺が、思いたくないんだ」

    背筋が緩んだ。
    息を吐き出して、頭を押さえて項垂れる。
    心得たように抱きしめられて、体温が欲しかったんだと回転の遅い頭で理解した。

    「…せんぱい、」
    「うん?」
    「少し、眠っても良いですか?」
    「構わないよ。疲れた?」
    「…そうかも」

    目を閉じた。
    髪に触れる手、すぐそばにある体温。
    絶対的な安心を見出して、今度こそわたしはほんの少しだけ睫毛を湿らせる。

    「…おやすみ」
    「おやすみなさい」

    世界の、どこかで。
    もしもわたしの祈りが、誰かを救う事があるとしたら。

    優しくてかなしいこの人を、救う事が出来たらいいのに。

    (人はかなしい生き物ですか)




    お題消化作。
    カレとカノジョ、の当初の姿に戻った感じですね。
    でもきっとバカみたいなノリも書くと思います(笑)

    祈りが人を救うのか。
    分からないけれど、救いになればいいとほんとに思います。
    そう思うこと自体、怠惰で傲慢なのかな、って気もしますけど。
    でも、救いであると思いたい、願いたい。

    最近は、そういう答えのないものばかり考えててちょっと脳みそ溶けそうです…!
    嫌な表現ですね!(ほんとにな)

    なんかもっとこう、ギャグっぽいのが書きたいですね。
    がんばろう。
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    ガーデン・ブルー。

    ※カノジョと元彼。



    君は余計な事を考えすぎる、とはわたしの昔の恋人の談だ。

    昔、と言ってもそれほど昔のことではなくて、ほんの二年くらい前の話、というだけのことだが。
    その時のわたしは今よりももっと子供で、もっと色んなことに手足をばたつかせて足掻いていたように思える。
    けれどきっと今だって、あと二年先のわたしが振り返ったら変わらないくらいにみっともなくて、そう考えるといったい何時になったらわたしはわたしの望む落ち着きとか、余裕とかを手に入れられるのだろう。

    その恋人は、とにかく頭のいい人だった、という認識が一番適当なように思える。
    実際彼のとるノートはごく僅かで、いろんなことを板書以外にも書き足していくわたしのノートと比べると、その差は際立って見えた。

    整然と、単語ばかりが書きこまれたノート。
    彼の書く文字は薄く細く、自信に満ちたその口調に似合わないと常々思っていたことは覚えている。
    叩きつけるように濃い文字を書いてしまうわたしは、そのほっそりとどこか女性的な文字が好きだった。

    『ノートはつまり自分の思考を助けるツールだよ。自分の思考が整理できれば、本当は文字を書く必要なんてないんだ』

    テストの前なんかに彼のノートを見せてもらっては、これじゃ分からないと零すわたしに彼はよくそう言った。

    『だけどあった方がわたしは助かるわ』

    そう言って拗ねた顔をすると、彼はよく笑った。
    その赦すような表情に、わたしは安堵していたのかもしれない。

    彼はたぶん、いろんなものを見下していた。
    他人も、自分を縛る学校というシステムも、そうして自分自身も。
    そんな彼に赦されることが、優越感めいた甘い感情を誘ったのかもしれない。

    休みの日には、よく二人でひたすら話し込んでいた。
    今となってはもうほとんど覚えていないけれど。

    互いの世界観、というか、認識の仕方を。
    言葉にするのは複雑で、自分の中では組立っている世界を相手に伝えるのは難しい。
    一時間で良いから互いの思考回路を交換できたら、と二人してもどかしい想いで言い合った。

    『俺は世界のすべてが見たい』
    『すべて?すべてって、例えばどんなものを?』
    『言葉通りの意味だよ。…俺がいま何を考えてそう言ったか、君にそっくり伝えられるツールがあればいいのに』

    そう。
    今考えれば、恋人というよりは教師と生徒、或いは兄と妹のような関係だった気がする。
    わたしはひたすら彼に教えを乞うた。
    考える力は彼の方がずっと上で、わたしは彼の言葉を聞いて己の世界を再構築していく。
    それが純粋に楽しかったのだ。
    そしてたぶん、そうするのに一番都合のいい関係性が恋人だったから、そうしたというだけのことで。

    どこか歪な、奇妙にねじれた関係。
    気付かなかった、と言えば嘘になる。

    ある時、一度だけ喧嘩をした。
    いや、彼にとっては喧嘩ですらなかったかもしれない。
    突発的な感情のバグ、ただそれだけのことだったのだと思う。

    『君は、余計な事を考えすぎる』

    学校帰りの、小さなカフェ。
    わたしはキャラメルラテ、彼はカフェオレ。
    一瞬言われたセリフの意味が理解できなくて、珍しく押し黙って彼の顔を見つめたような気がする。

    『たどり着いたら答えはひとつなのに。どうしてそんな瑣末なことで悩む?』

    瑣末なこと。
    そう言われたことが悔しかったのか、それとも理論でしかものを言わない彼に腹を立てたのか。
    分からなかったけれど、その言葉は確かにわたしの神経を逆なでた。

    『プロセスがいくつあったところで、解答は一つだ。そして、その解答は最初から決まってる』
    『…きまってる』
    『そうだ。公式に数字を当てはめたら、答えが必ず出るのと同じこと』

    決まっている解答。
    そこにたどり着くまでの道のりで足掻くわたしを、憐れむような口調。
    次の瞬間わたしは激昂して、一緒に持ってきたお冷を彼の胸に向かって投げつけていた。

    滴る、氷水。
    色を変えたブレザーと、飛び散った水にぬれた髪、頬。
    一瞬驚いたように眼をみはった彼を残して、わたしはその場を後にした。

    『おはよう、』
    『あ…昨日は、その』
    『何が?どうした、そんな神妙な顔して』

    けれど翌日、彼は何事もなかったかのようにわたしに挨拶をしてきた。
    怒っているのかもとは思ったが、それは杞憂で。
    なんら変わりなく接されて、彼にとってあれは予想の範囲内のミスでしかなかったのかもしれないと考えた。

    奇跡的、と言うべきなのか。
    その事件が、わたしたちの別れの原因にはならなかった。
    別れの原因はただひとつ、物質的な距離が離れたからに他ならない。

    距離が離れたから、さほど熱心に言葉を交わして縮めたいものがなくなった。
    ただ、それだけのこと。

    考えてみたらそれでよくもまぁ付き合いを名乗れたものだと感心したくなる淡白さだが、彼との恋人期間が今でも薄くわたしの意識に残っていることは確かなのだろう。
    少なくとも、素直で可愛らしい恋人を、先輩にプロデュースしてあげられないところとか。
    縋ることすらできなかった恋人期間で、だからかな、わたしは今でもすこし怖い。

    今でも余計な事ばかり考えて、わたしは思考の海に溺れて。
    足掻いてもがいて、それでも浮かび上がれないことなんてしょっちゅうだ。
    それは対象がわたしにとっては大切だからで、だからこそここまで苦しくなるんだと、気付いたのもつい最近のこと。

    「…解答は決まってる、か」

    そうかもしれない。
    あれこれ思い悩んだって、なるようにしかならないのだから。
    それでも思考を止められないのは、きっとわたしが人間だからで。

    「ごめん、おまたせ」
    「遅いですよ、先輩」

    映画に行こうと待ち合わせた時刻の、五分過ぎ。
    先輩がわたしの前に腰を下ろして、申し訳なさそうに謝る。
    飲んでいたアイスティーを彼に向かって傾けると、ありがとうと言ってそれを半分ほど一気にあおる。

    「ごめんね、どれくらい待った?」
    「五分以上十分以下、ってところですね」

    思考の海に溺れて、ぼろぼろのまま浮かぶわたしを。
    苦しいのなら捕まればいいと、当たり前のように手を伸ばす人。
    名前のない怪物に怯えるわたしを、見つけてこの人は微笑んだ。

    わたしはこの人に出会ってようやく、自分がさほど強くないことを知った。

    「待っててくれて、ありがとう」

    あっさりとそう言って、先輩は笑う。
    わたしは少しだけ考えて、小首を傾げる。

    「…どういたしまして?」
    「うん、それで良い」

    綺麗に笑うと、先輩は恭しくわたしに手を差し伸べた。
    意図を察して掌を重ねる。

    「行こうか、」
    「はい」

    昔彼と行ったのと、よく似たカフェ。
    そこにたゆたう古ぼけた過去の欠片に、そっと微笑む。

    解答は確かにひとつ、それは事実ね。
    だけどプロセスが無限にあるからこそ、見つかる解答もうつくしい。
    そうは思わない?
    わたしは、そう願いたいよ。

    「どうしたの?」
    「いいえ。ねぇ先輩、わたしポップコーンはキャラメル味が良いな」
    「了解、」

    きっと過去のわたしは首をかしげて、それから軽やかに笑うのだろう。




    すごく長くなった…気がします。
    こういう文章をあまり書かないので、楽しかったです。

    余計なことばっか考えて、ぐるぐるして。
    胃が痛くなって、気持ちはもうどん底這ってて。
    そう言う時に、解答はひとつだと言われるのも、確かに救いかもしれません。
    だけどふっと隣に寄り添ってくれることだって、きっと十分に救いですよね。
    ただそれは難しくて、言葉を尽くすしかできなかったりもするのですが。

    なんか、みんな幸せなら良いのになぁって思いながら書きました。
    …そんな話には見えないが(笑)

    さみしがり唄うたい。

    ※カレとカノジョ。
    淋しがりカノジョのお話。



    なんで、かしら。
    白々しく明るいケータイの液晶画面を見ながら考える。

    どうして、なのかな。
    繋がらなきゃただのオモチャだってことくらい、分かってはいるのだけど。

    「…もう、十二時か」

    見上げた時計は、日付がもうじき変わることを知らせている。
    手の中のケータイも同じ時刻を表示していて、当たり前のようにかなしくなった。

    淋しい、です。
    呟いた声はあまりに薄っぺらくて透明で、まるで現実味のない声だった。
    わたしの声じゃないみたいで、少しだけ笑える。

    淋しい、さみしい。
    そうは思うけれど、だからといって涙も出なくて、縋る手段も思いつかなくて。
    夜の真ん中で、ぽっかりと穴をくり抜いたようなケータイの画面を見つめてみる。

    別にケータイが鳴らないことが淋しいんじゃなくて、悲しいんじゃなくて。
    繋がっていないことが、苦しいわけでもなくて。

    ただ、どうしてかしら。
    わたしだけが、置いてきぼりにされてしまったような気がするのは。
    心臓が痛くて、泣きだしたいのにちっとも潤わないわたしの瞳が憎らしかった。
    かなしい気持ちばっかりが、たまっていくのが分かってしまう。
    涙にして溶かせないのは苦しいことだと、久しぶりに思い出した。

    「…そう思うこと自体、おこがましいのかもしれないけど」

    こういう時に、あの人に。
    「淋しいわ」って縋れたら、もうちょっと違う夜になっているのかも知れないけれど。
    わたしにそんな芸当はできないし、そもそもそんな甘い声、仕事でもなきゃでるわけがない。
    つくづく不器用だとは思うけど、今更どうにもならないし。

    「…そろそろ、寝なくちゃ」

    淋しくなるから、最近は夜がきらいです。
    わたしは朝が苦手で、優しい夜の方がずっと好きだったはずなのに。
    味方だったはずの夜をきらいになってしまったら、わたしはどこに身を置けばいいのかしら。

    ひんやりした夜の空気のせいか、普段は考えないようなことばかり考えてしまう。
    センチメンタルなんてらしくないな、わざと口に出してみて笑った。

    立ち上がって、カーテンを引いた。
    思いついて隙間から見上げた空には、白っぽい月が光る。
    その光だって紛い物なんだよと、昔誰かが言っていた気がする。

    「っ!」

    その時だ。
    ベッドサイドに放置していたケータイが、高らかに鳴り響く。

    それはこの世界でたったひとり、わたしが特別なメロディを捧げた人からの。
    きっちり五秒間鳴って沈黙したケータイを、ゆっくりゆっくり取り上げる。

    「…メールだ」

    差出人は、もちろんあの人。
    彼からのメールを開く瞬間は、何時も少しだけ怖い。
    それでも数度真ん中のボタンを押すと、あっけなくメールは開かれた。

    件名はなし。
    本文はたった一行で、写真が添付されている。
    ――それは、しろい月の写真。

    「…っ」

    わたしが見ていたのと、同じもの。
    しろく浮かぶ月、それは酷く綺麗だと思った。
    あの人の目から見た世界は、こんなにもうつくしいのかと感動すら覚えた。

    月が綺麗だよと。
    それだけを告げるメール。
    だけどその一言は、わたしの冷え固まった心臓をあっという間に溶かしていく。

    どうして、どうしてですか。
    貴方の声は、いつだってわたしの心を揺らします。
    不器用に足踏みばかりを繰り返す、弱い本音すら見透かしているのでしょうか。

    痛みばかりを訴えて、そのくせ泣かせてもくれなかったのに。
    たったこれだけで涙が落ちて、どうしようもなくなった。

    「…?」

    もう一度音楽を奏でるケータイ。
    さらに追加で送られてきたメールを開いて、わたしは少しわらう。

    『おやすみ、また明日』
    わたしの逡巡すら掬いあげるあの人に、嗚呼わたしはきっといつまで経っても敵わない。
    それでも良いと思えるあたり、わたしの世界も彩られているのでしょう。

    「…おやすみなさい」

    呟きと同じ言葉を返信して、わたしは揺らいだ視界をぬぐう。
    おやすみなさい、わたしと貴方の世界に向けて。

    きっと明日最初に逢う貴方は、わたしを見つけて笑ってくれるだろうから。

    (世界に君を、そうして唄を)



    明るい?え、これ明るくなってるのかな…!?
    とりあえずほんのり暗めループから抜け出してみたつもり。
    それにしてもノリが少女漫画な気がする…や、少女漫画はめったに読まないんですが(笑)

    ちょっとカノジョが素直すぎました。
    こいつはたぶんもっとツンです。
    でもなんとなく、さみしい気持ちを見透かされると泣きたくなってしまうよねって思ったり。

    さみしがりです、きっと、みんな。
    でも上手く言えないまんま溜めこんでしまって、ふとした一言に心臓の柔らかい部分に触れられるとどうしようもなくなってしまうのかな、って。

    なんか、ね。
    かなしい時はたぶん、泣けた方が良いんだよって話です(どんなシメだ)

    置き忘れた記憶の中にいつまでも閉じ込められた愛のうた

    ※カレとカノジョ。
    眠り姫にはなれない。



    夢を見ていた気がする。

    「…、」
    「おはよ」

    ゆるゆると髪を梳かれて、ようやく現実が足元をかすめるような気がした。
    目を開けると、すぐ近くで彼がわたしの顔を覗きこんでいた。
    それはつい今しがた見ていた夢に似ている気がして、わたしはその境目に一瞬悩む。

    「…寝てました?」
    「うん、」

    いつもそうだけれど、眠りに落ちた感覚はやはりなくて。
    だけど目が覚めたという事はわたしは眠っていたのだろう。
    頭をもたげようとするけれど、髪を撫でる手が優しくてなんとなく起き上がるのが惜しい気もする。
    デートの合間に寝るつもりはなかったんだけどな、とぼんやり思った。

    「どれくらい、寝てましたか」

    寝起きの常で掠れた声。
    それでも正しく聞き取って、彼は15分くらいだと答えた。
    頭はまだ霞がかったようで、わたしはどこかふわふわした感覚のまま頷きを返す。

    「珍しいね。君が眠っちゃうなんて」
    「…誰のせいですか」
    「さぁね?君のせいかな」
    「どうしてそうなるんですか…」

    ひとつ、あくびがこぼれた。
    眠っていたはずなのに、まだ頭がはっきりしてこない。

    「でも、ちょっと得した気分」
    「とく、ですか?」

    ゆっくりと繰り返し髪を梳いていく手に、眠気が誘われる。
    一度ちいさく頭を振ると、上の方で笑い声がもれた。
    ちゅ、と頭のてっぺんに唇が触れる。

    「珍しく寝顔が見られたしね」
    「…そんなに珍しいものでも、ないでしょう」

    見ようと思えば、さほど苦労せずとも見られるものだろうに。
    見られてあまり気分のいいものじゃないけれど、彼なら構わないとは思っている。
    …わたしがそう思うこと自体、かなり稀だってことに気付いているのかは分からないのだけど。

    「昼間だと、やっぱり違うんだって」
    「そう、ですか?」
    「そうだよ」

    あくびをもうひとつ。
    なかなか目が覚めきらないのは、彼が頭を撫でるからだと結論付ける。
    せっかくの休日で、デートなんだからそろそろ起きなきゃいけないと思う反面、まだこうしていたいような気もして少し困った。

    どうしようかな、居心地が良いからまだ起きたくない。
    でも、そろそろ起きた方が良いかもしれないな。
    まだ午後になったばかりだろうし、今からなら何処かにお出かけだってできるかも。

    ふと、見ていたはずの夢の欠片が翻った。

    「…ゆめを、見ていました」
    「そう。どんな?」
    「先輩が、いましたよ」

    夢の中でも、変わらず。
    傍にいたような気がする。
    幸せだった気がするの、わたしの傍に貴方が居て。

    微笑んでいたのだろう、口の端に彼の指先が触れた。

    「…そっか、それは嬉しいな」
    「ふふ、」

    本格的に抱き寄せられて、わたしの身体は半分彼の身体の上に乗るようなかたちになる。
    ソファに二人して沈んで、そのくせ浮かんでいるような気がした。
    ゆらゆらと、眠気が押し寄せる。

    「じゃあ、もうちょっと夢を見てて」

    耳元で、誘惑するように声が揺れる。
    抵抗できない、と言い訳のように思った。

    「…せっかくの休みなのに」
    「良いじゃない、たまには」

    でも、そうね。
    夢の続きを見られるなら、悪くはない。

    つぎに夢から覚めた時、また境目が淡くなるくらいの距離でいられたらいい。

    「…おやすみなさい」
    「ん、おやすみ」

    夢の中で、もう一度。



    お題消化作。
    お風呂入ったらさくさく寝ようと思ってたのに、ネタが浮かんじゃったら書くしかないよねっていう。
    早く寝ようと思ってる時に限ってネタが浮かぶ罠…誰か操ってる気がしてなりません。

    眠りを書くのが好きです。
    何回か言ってる気もしますが。
    無防備だからかな、距離が近いからかな。
    眠たいけどなんとなく甘くって幸せ、みたいな雰囲気が大好きでたまらない。

    …そしてわたしも眠ることにします(笑)

    無二の春。

    ※カレとカノジョ、桜企画。
    満開です。


    「見事ですね」
    「うん、本当に」

    満開の桜並木の下は、平日のせいか人はまばらだ。
    ゆっくりと縫うように足を進めて、時折立ち止まって。
    桜を見上げる君を見ているのは、実はなかなかに楽しいのだ。

    誇らしげに枝を伸ばした桜。
    蒼空の下でもきっと鮮やかに映えるのだろうけれど、彼女の希望で敢えて夕暮れ時を選んだ。
    やわらかな藤色の空に描かれた桜は、なんだか着物のようだと思う。

    うたうように君が笑う。

    「あぁでも、確かにこの桜の下でなら死んでもいいかもしれない」
    「西行?だっけ」
    「そうです」

    終わりを迎えるなら、桜の下で。
    その死はどこか甘美ですらある。

    張り巡らされた根の下には、死体があるとは聞くけれど。
    間際に彼らの声に耳を傾けていられたら、きっと淋しくも怖くもない。
    そこまで考えて、子供じみた空想だと嗤った。

    「…桜の花は血を吸っているからこんな色をしているんでしたっけ」

    折しも彼女も同じことを考えていたらしい。
    俺を見上げた瞳の中に、自分とよく似た色を見つけた。
    微笑めばそれが答えで、彼女も俺に微笑で答える。

    「…じゃあ、桜の下の死体がもっと多ければ、もっと紅いのかもしれませんね」

    料理の味付けでも考えるような声だ。
    心底から疑問に思っているような。
    さらされた横顔は、あどけなさすら漂う。

    「…気になる?」
    「わりと。どうしてそういう言い伝えになったのかっていうのも含めてですが」

    じゃあ。
    呟いて、彼女の腕を引いた。

    驚いて見上げてくる瞳。
    単純に綺麗で、つい見とれる。

    「(…嗚呼、此処にあったな)」

    忙しく過ぎていく日々の中。
    置き忘れてしまったようで、失ってしまったようで。
    それすらも忘れていくような、感覚。

    きっと、答えはこれなんだ。

    「…試してあげるよ、どうなるか」
    「…桜が、赤くなるか?」
    「そう。一緒に埋まってあげる」

    他人が聞いたら、気が違っているとでもいうかもしれない。
    考えてみればおかしな約束だ。
    一緒に埋まってあげるなんて、まるで心中じゃないか。
    しかも発端が「桜が染まるかが知りたい」だなんて、さっきの空想より子供じみている。

    だけど、それで良いんだ。
    それが良いんだ、俺にとってはこれが最高の。

    ふたりして春の亡霊になるんだったら、悪くない。

    「…ときどき、とんでもないことを言いますね」
    「嫌い?こういうのは」
    「いいえ、」

    笑った顔に、承諾を知る。
    俺は君に甘いと彼女は言うけれど、君だって十分俺に甘いよ。

    君の願いを聞くようでいて、これはおれの我儘でしかない。
    それをあっさりと赦してしまうのだ、君だって人のことを言えない。

    「真っ赤になったら、素敵ですね」
    「そうだね、きっと楽しい」

    捕らえた腕は、そのままに。
    終りの見えない桜並木に、すでに亡霊になったような心地さえした。

    (季節をひとつしか知らない花よ、)

    (咲き誇りこの世界を染めておくれ)



    桜企画…あれこれ第何回?
    もう分かりません、だめですこいつ(笑)

    久々にこっち更新、かな…?
    なんかもう最近脳内からいろいろ溢れて来ててどうしたらいいですかな感じです。
    でもどうもしません!!(開き直った)

    桜、あといくつか書きたいのが…間に合うかな…。
    早くしないと散ってしまいますよ。

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    プロフィール
    HN:
    祈月 凜。
    年齢:
    34
    性別:
    女性
    誕生日:
    1990/10/10
    職業:
    学生。
    趣味:
    物書き。
    自己紹介:
    動物に例えたらアルマジロ。
    答えは自分の中にしかないと思い込んでる夢見がちリアリストです。
    前向きにネガティブで基本的に自虐趣味。

    HPは常に赤ラインかもしれない今日この頃。
    最近はいまいちAPにも自信がありません。
    MPだけで生き延びることは可能ですか?

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