※カレとカノジョ。
眠り姫にはなれない。
夢を見ていた気がする。
「…、」
「おはよ」
ゆるゆると髪を梳かれて、ようやく現実が足元をかすめるような気がした。
目を開けると、すぐ近くで彼がわたしの顔を覗きこんでいた。
それはつい今しがた見ていた夢に似ている気がして、わたしはその境目に一瞬悩む。
「…寝てました?」
「うん、」
いつもそうだけれど、眠りに落ちた感覚はやはりなくて。
だけど目が覚めたという事はわたしは眠っていたのだろう。
頭をもたげようとするけれど、髪を撫でる手が優しくてなんとなく起き上がるのが惜しい気もする。
デートの合間に寝るつもりはなかったんだけどな、とぼんやり思った。
「どれくらい、寝てましたか」
寝起きの常で掠れた声。
それでも正しく聞き取って、彼は15分くらいだと答えた。
頭はまだ霞がかったようで、わたしはどこかふわふわした感覚のまま頷きを返す。
「珍しいね。君が眠っちゃうなんて」
「…誰のせいですか」
「さぁね?君のせいかな」
「どうしてそうなるんですか…」
ひとつ、あくびがこぼれた。
眠っていたはずなのに、まだ頭がはっきりしてこない。
「でも、ちょっと得した気分」
「とく、ですか?」
ゆっくりと繰り返し髪を梳いていく手に、眠気が誘われる。
一度ちいさく頭を振ると、上の方で笑い声がもれた。
ちゅ、と頭のてっぺんに唇が触れる。
「珍しく寝顔が見られたしね」
「…そんなに珍しいものでも、ないでしょう」
見ようと思えば、さほど苦労せずとも見られるものだろうに。
見られてあまり気分のいいものじゃないけれど、彼なら構わないとは思っている。
…わたしがそう思うこと自体、かなり稀だってことに気付いているのかは分からないのだけど。
「昼間だと、やっぱり違うんだって」
「そう、ですか?」
「そうだよ」
あくびをもうひとつ。
なかなか目が覚めきらないのは、彼が頭を撫でるからだと結論付ける。
せっかくの休日で、デートなんだからそろそろ起きなきゃいけないと思う反面、まだこうしていたいような気もして少し困った。
どうしようかな、居心地が良いからまだ起きたくない。
でも、そろそろ起きた方が良いかもしれないな。
まだ午後になったばかりだろうし、今からなら何処かにお出かけだってできるかも。
ふと、見ていたはずの夢の欠片が翻った。
「…ゆめを、見ていました」
「そう。どんな?」
「先輩が、いましたよ」
夢の中でも、変わらず。
傍にいたような気がする。
幸せだった気がするの、わたしの傍に貴方が居て。
微笑んでいたのだろう、口の端に彼の指先が触れた。
「…そっか、それは嬉しいな」
「ふふ、」
本格的に抱き寄せられて、わたしの身体は半分彼の身体の上に乗るようなかたちになる。
ソファに二人して沈んで、そのくせ浮かんでいるような気がした。
ゆらゆらと、眠気が押し寄せる。
「じゃあ、もうちょっと夢を見てて」
耳元で、誘惑するように声が揺れる。
抵抗できない、と言い訳のように思った。
「…せっかくの休みなのに」
「良いじゃない、たまには」
でも、そうね。
夢の続きを見られるなら、悪くはない。
つぎに夢から覚めた時、また境目が淡くなるくらいの距離でいられたらいい。
「…おやすみなさい」
「ん、おやすみ」
夢の中で、もう一度。
お題消化作。
お風呂入ったらさくさく寝ようと思ってたのに、ネタが浮かんじゃったら書くしかないよねっていう。
早く寝ようと思ってる時に限ってネタが浮かぶ罠…誰か操ってる気がしてなりません。
眠りを書くのが好きです。
何回か言ってる気もしますが。
無防備だからかな、距離が近いからかな。
眠たいけどなんとなく甘くって幸せ、みたいな雰囲気が大好きでたまらない。
…そしてわたしも眠ることにします(笑)
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