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※仮想世界。
やっと書けた眼帯ネタ。
見慣れた彼の顔に、見慣れぬ白いそれ。
「…それ、どうしたんだ?」
蒼が指差したのは、優の右目にかけられた白い眼帯。
日本人にしては色素の薄い彼の眼を覆うそれは、当然のことながら普段はないものだ。
いつものようにふらりと遊びにきた優の眼にそんなものがあるのだ、ぎょっとするのも無理はない。
けれど、心配を表情ににじませた三兄弟とは正反対に、優はいつものように読めない笑顔を向けた。
「あー、ちょっとねー」
「…ちょっとってなんだ」
青が問うが、優は笑うばかり。
隣に立つ氷雨が、すっと目を伏せたのも気になった。
そういえば彼女も普段より、顔色が悪いように思える。
見取ってますます彼らは眉を寄せるが、二人は答えようとしない。
「…ひーちゃん、何があったの?」
藍が笑う。
氷雨は薄く微笑んで小首をかしげた。
「なんでもないですよ」
「じゃあなんで俺の目を見ないの?」
「女は嘘を吐くときにこそ真っ直ぐ目を見るそうですよ」
埒が明かない。
兄弟は目配せを交わしあう。
元々素直さからは程遠い彼らだけど、自分たち本人のこととなるとなおさらそれが顕著になる。
心配かけまいとしているのかもしれないが、そんなのかえって迷惑だ。
「…ふーん、そういうこと言うんだ」
藍が冷えた笑みを浮かべる。
素直に口を割らないと言うのなら――そう、吐かせるまでだ。
さりげなく、ほんの少しだけ青は優と間合いを詰める。
「まぁ、言いたくねーなら聞かねぇけど…なんって言うと思ったか!」
「えっそれ卑怯!」
がしっと腕をつかんで、思いっきり袖を引きあげた。
軍服の下、見えたのは――包帯。
それも、ずいぶんと真新しいものだ。
「…青」
「りょーかい」
「ちょ、それは勘弁してよっ」
珍しくあわてた優の声も聞かず、ついでに前ボタンも開けてしまう。
…予想通り、鳩尾のあたりに大きな痣。
赤黒く広がって、どう見たって本気で誰かに蹴られたとしか思えないものだ。
「優さんっ!?」
「はいひーちゃん捕まえた!」
優の声に気を取られた一瞬の隙をついて、藍が氷雨を捕らえた。
同じように袖を捲ると、こちらは大きなガーゼが貼られている。
あぁ、そうだ妙に鼻につくに匂いがすると思ったのは消毒液と血の匂い。
辛気臭く冷たい匂いが、彼らから漂う。
「…何があった?」
蒼の声が、低くなる。
片方だけの優の瞳を見つめるが、彼は薄く笑う。
軍事訓練というわけでもないだろう、それにしては怪我が多様すぎる。
訓練ならせいぜい擦り傷くらいで済みそうなものだが、見た限り故意的に受けた傷だと思ってよさそうだ。
腕にふれたときに、優が眉をひそめたのを蒼は見逃さない。
「…誰にやられた?」
「階段から落ちただけだよ」
「一瞬でバレるような嘘を吐くな」
軽く睨むと、優が舌打ちをする。
本気で騙せると思ったのなら、それはそれで尊敬に値するけれど。
生憎こちらは人の命を奪って生活をしているのだ、そうそう容易く騙されてやるつもりはない。
ふい、と優が顔をそむけた。
「ちょっとー、青に藍。これセクハラなんだけど?特に氷雨は女の子だよ」
誤魔化すような軽い口調。
いまさら誤魔化せるわけがないのに、と三人は思う。
そもそも素直に言わないのが悪いのだ、と半ばあてこすりのようなことさえ考えた。
「あー大丈夫、おれひーちゃんの事女の子として見てないから」
「見られていても困りますがそれはそれで複雑です藍さん」
今現在この部屋に居る唯一の女性を捕まえておいて、なんてことを。
そう言いたげな眼で氷雨が藍を睨みあげる。
「えーだって、おれ自分に絶対振り向かないって分かってる女の子にわざわざ手を出すほど飢えてないし。…青にーさんと違って」
「俺だって出してねぇよ!!」
「あ、ごめん違うか。青にーさんの場合出さないんじゃなくて出せないんだっけ」
「てっめ…!後でぜってー泣かす!」
「やれるもんならどうぞー?」
「…とりあえずお前ら、今考えるべきはそこじゃない」
蒼に兄弟げんかをたしなめられて、青は舌打ちをし、藍は肩をすくめる。
そのままケンカしててくれて構わなかったのに、と氷雨が呟いた。
「…さて」
蒼の無邪気な笑顔。
…否、無邪気「そう」に見えるだけというべきか。
優と氷雨を交互に見つめて、蒼はいっそ可憐にため息を吐く。
「何があったのか、言いたくないなら無理には聞かない」
「…」
「…ただ。心配くらい、させてくれ」
本気で気遣うような表情に、一瞬氷雨が胸を痛めたように眉を寄せる。
自分たちの為に、友人が本気で心配していて。
けれどその理由すら明かさないのは、いささかフェアではないのではなかろうか。
そう思わせるくらいの威力は確かにある。
「…っ」
「氷雨、これ演技だからね」
…しまった、危うくほだされかけた。
優に名前を呼ばれ、慌てて氷雨は数度首を振った。
「蒼、やめてよ氷雨こう見えてけっこー騙されやすいんだから」
「知っててやったが、何か問題が?」
「うっわームカつくその笑顔!」
相も変わらず誤魔化しを含んだ軽い口調だが、ここから騙しなおすのには無理があるだろう。
そもそも、最初から騙せてなどいなかったんだろうなと優は頭の片隅で思う。
理由を説明するのは、まるで自分たちが被害者だというようで嫌だった。
自分たちは被害者になど成り得ないというのに。
優と氷雨は軍人で、この怪我を騒げる立場になど居ないのだ。
軍に反感を持つ人間など、石を投げれば当たるくらいにいるだろう。
そう本気で思えるくらい、この国は今揺れていて。
それを正すのが軍の役目のはずなのに、実際はその逆だ。
国を揺らし、民の生活を脅かし、それでいて彼らだけはのうのうと暮らしている。
過激な不穏分子が現れたって、可笑しくはない。
「…自業自得だよ」
優雅な顔立ちに似合わぬ、荒んだ表情で優は吐き捨てた。
あぁまただ、また限界にぶつかる。
四方を塞がれたまま、同じところを迷走するチキンレース。
くだらなすぎて笑えるくらいだ。
「自分たちの立ち位置くらい、分かっていますから」
突き放すように氷雨は笑った。
服の下の痣は、自分たちが無能である証だ。
間違っていることは分かっているのに動けやしない、そんな自分たちを詰る声ならば甘んじて受けよう。
それすらも間違いだと嘆く声には、聞こえないふりをして目を閉じる。
「…そうか」
蒼が一度、頷いた。
それを合図に、青と藍の手が離れる。
安堵の息を吐いて、優は微笑んだ。
「だから、心配しないで?」
「…そうだな」
動けない、優と氷雨。
立ち尽くしたまま声すら無くして、それで構わないのだと笑う。
確かに彼らはそう思っているのかもしれない。
それで良いのだと、思っているのかもしれない。
けれど、兄弟たちはどうだ?置いてきぼりにされて、心配する権利すら奪われて。
そんなの、理不尽だとさえ思う。
「心配はしないさ。ただ、勝手に動かせてもらうがな」
そんなことで自分達が引き下がると思ったら――大間違いだ。
息を吸い込み、鋭く蒼は告げる。
「青、お前ちょっと蓮と風姫呼んで来い」
「任せろっ」
「藍はパソコン使ってどこのどいつか割り出せ」
「はーい」
「ちょっと、蒼?」
咎めるような優の声に、しかし蒼は笑う。
悪役めいた、笑顔。
その顔に、そう言えば彼らは正統派の映画で言うのならば間違いなく悪役のポジションに居たのだと思いだす。
だって、彼らは稀代の暗殺者なのだから。
そして尚且つ応援として彼が選んだのは、勝負のルールなんて丸ごと無視したジョーカー二人だ。
「ん、どうした優?」
「どうしたって、君…」
心配はしないでくれと彼らが言うのならば、従おう。
ただ、報復をするなという頼みなどは聞いていないのだから。
こちらはこちらで勝手な良心の判断に従うだけだ。
その判断が、たとえどんなにズレていようと知ったことではない。
駆けだした二人を見て、氷雨が一層顔を青ざめさせた。
それを見て少し可哀想な気にもなるが、止めてやる気はさらさら無い。
「…何、する気ですか?」
「聞きたいか?」
「結構です」
聞いた自分が馬鹿だった、と氷雨は後悔する。
あんな笑顔見たくなかった、どんなものかは想像に任せるけれど。
「…大丈夫、心配はいらないさ」
仕返しのように、そんな言葉を吐いて。
蒼は優しげな声を出す。
…悪魔の声はうつくしい、とはよく言ったものだ。
「お前らが心配してやることなんて、一つもないさ」
その言葉に、優と氷雨はすべて綺麗に諦めて。
明日の新聞に見た顔が載らないことを、心から祈った。
(人生諦めが肝心です)
…長いって(セルフツッコミ)
催促されたので頑張ってみたよ、な眼帯ネタです。
でもあんまり眼帯の出番なかったんだぜ…!意味がないww
長かったけど楽しかったです。
あんまり青と藍が書けなかったのだけ残念ですが。
あと、ほんとは蓮と風姫もいたんですが、さすがにそれは優と氷雨が可哀想なのでちょっと自重したというどうでもいい裏話があったりとか。
報復のシーンは多分ナチュラルにえげつないので書きません…。
や、書いても良いけど一応ここ健全サイトだから!
全年齢対象のつもりだから!(笑)
そんな葛藤です。
※仮想世界にて。
次男と蓮。
視界をかすめる、鮮やかなピンク色。
耳を飾る、いくつものピアス。
わざと荒くした口調、眉間に寄せたしわ。
それらは人の目を引き、けれど彼らの心を遠ざける。
距離を望んだのは紛れもなく自分で、慣れ合うのも寄り添うのも怖いから突き放したんだ。
派手なピンク色の髪は、俺が造った壁だった。
触れられるのは、怖い。
ぬくもりはいつか冷めるし、形をもったものは壊れる。
だったら最初から、近づかなければ良い。
そう、思っていたのだけれど。
「…」
先刻から、じっと視線を注がれていることには気付いていた。
真っ直ぐなそれは、不躾ですらある。
本当は、もっとそつのない目の向け方だって彼には余裕でできるだろうにと思う。
「…んだよ」
耐えきれず顔をあげた。
すると、蓮はにこりと微笑む。
青の苦手な、綺麗な笑顔。
すぐに顔をそむけて、吐き捨てるように言う。
「用がないなら見るなよ」
別に、本心からこんなことを言いたいわけじゃない。
ただ、慣れていないのだ。
傍に他人が居ること自体に。
そしてこんな風に、穏やかに笑みを向けられることなんて、今までなかったから。
あんまりにも不器用で上手くいかなくて、少しだけ苦しくなる。
「んー…用なら、あるけど」
「…なんだよ」
蓮の声に、もう一度、おそるおそる顔をあげた。
青の視線が自分に向くのを待っていたように蓮は笑うと、その手を真っ直ぐに青に伸ばした。
「ちょ、蓮!?」
わし、わしわし。
撫でるというにはずいぶんと乱暴な手つきで、髪をかき乱された。
鮮やかなピンク色の髪が、くしゃくしゃにほつれる。
「おま、何する…っ」
「…ねぇ、春は好き?」
そうして投げかけられたのは、唐突な問い。
思わず蓮の瞳を見つめると、何が可笑しいのかやっぱり笑みで返された。
青の瞳と。
ぶつかったのは、蓮の黒い瞳。
奥でほんの一瞬、血のような赤色が翻ったような気がする。
「僕は春が好きだよ。青は?春は好き?」
「…まぁ、それなりに」
繰り返されて、ちいさく頷いた。
甘い春は、嫌いではない。
すると蓮はもう一度、今度はゆるく髪を撫でた。
「春は良いよね。うつくしいし、優しい。春があるから、夏も冬も秋も綺麗なんだと思うよ」
凍てつく冬を、終わらせる軽やかな足音。
引き連れられた命が燃えて、世界は彩られて。
艶やかに勢いを纏って、すべてが生まれ変わる春。
「僕は春が好きだよ」
繰り返して、言い聞かせるように。
そしてさらに、彼は丁寧に告げるのだ。
「――君の髪は、春の色だね」
遠ざけた距離を、容易く飛び越えて。
掴んだ手は、それこそ春のようで。
「…っ」
はじめてだった、そんなことを言われたのは。
世界にだって赦されたような気がして、思わず青は言葉を失う。
なんで、どうしてそんな。
当り前の顔をして、嗚呼。
「悪いけど、僕はそんなんじゃ君を諦めてあげないよ」
そう言って離れた体温。
俯いて唇を噛んで、青は蓮が部屋を出ていくのを耳だけで追う。
しまった扉、それを確認してようやく呼吸を取り戻した。
「…ずりぃ」
呟いた声は、それでも確かに春の彩りに満ちていた。
蓮の「君の髪は――」を言わせたいがためのネタ(笑)
ぶきっちょな青が好きです。
※仮想世界にて。
でも「神様も知らないような世界を見つめるあの人の横顔」から繋がっています。
ちょっと真面目に出会ってみようか、な人々です。
改訂版。
遠くの方で、銃声が聞こえた気がした。
猟犬のような動きで、蓮と風姫は顔を上げる。
「…!?」
「なに、いまの…」
否、銃声のような音、という方が正しいか。
自分たちの存在の方がよほど現実味を欠いているというのに、彼らにとってそれはドラマや映画の中でしか聞いたことのない、現実感のない音だから。
けれど徒に首筋を駆け上がる寒気が、恐怖と焦燥を誘っていく。
「…」
向かってくる足音は、三つ。
扉を開けるのは、天使か悪魔か。
それでも縋るほかないのだろう、そう思うと自然笑みがこぼれた。
無意識に呼吸を数えて、足音が近づいてくるのを待つ。
がこん、と一度だけ鈍い音がして、その重たげな扉がゆっくりと開いた。
「!?」
「あ、居たよ兄さん」
扉の向こう。
ひょい、と顔を覗かせたのは――少年。
しかも、自分たちとさほど年の変わらない、まだ幼げな風貌をしている。
思わず警戒心を解きそうになるが、よくよく考えてみたらこんなところに一般人が入れるわけがないのだ。
思い至って、すぐに眉根を寄せる。
「だ、れ…?」
「あぁ、こいつらか」
「なんだ、まだガキじゃねぇか」
続けて顔を出したのは、長い黒髪がうつくしい青年。
それから、鮮やかなピンク色の髪の少年だ。
誰に警戒をしていいのかさっぱり分からず、蓮と風姫は顔を見合わせる。
一体何が起こっているのか。
説明してくれる人物がいるなら、是非ともお願いしたいところだ。
青年は、気遣うように蓮たちを見る。
「怪我はないか」
「え、えぇ…」
「…誰なの?貴方たちは」
蓮の思い切り不審そうな声に、三人はくすりと笑った。
どうしてここで笑えるのかが、蓮には理解が出来ない。
信用に値する人物なのかも判断がつかず、ただ己の腕を強く抱いた。
「…いや、驚かせて悪かったな。自分たちは、君ら二人を助けにきた、とでも言えばいいのかな」
「…助けに、きた?」
蓮はますます眉を寄せる。
彼を助けに来るというのならば、本来であれば彼の家のSP(こう見えても富豪の大事な一人息子なのだ)が真っ先に駆け付けるだろう。
或いは、父のツテで軍部の誰かか。
幾人か思い浮かぶ顔はあるものの、そのどれとも三人は結びつかない。
「…その割には、知らない顔だけど」
異分子が紛れ込んだ時に、すぐに判断がつくように。
蓮は自分の周りの人間のデータを、ほぼ完璧に頭に入れてある。
何度検索しても出てこないのだ、彼らは蓮の知らない人間と判断して良いだろう。
青年は、穏やかに微笑んでみせる。
「さすが、有沢の御曹司様だ。ご自分の取り巻きを把握しておられるとは」
「馬鹿にしているの?」
「いや、褒めてるさ」
「まぁ、実際お前ら助けに来たって言うと語弊はあるけどな」
引き継いだのは、ピンク色の髪の彼。
鮮やかに目を奪う春の色だと、そんな事を思える状況ではないのにそう考えた。
彼はつかつかと蓮と風姫に歩み寄ると、抵抗する間も与えず腕を取る。
最初から理解しているように、袖口をまくりあげた。
そこに在るのは、彼らの力を封じている奇妙な文字。
「なに、するの?」
「黙ってろ」
そう言って、彼は小さなプラスチックのボトルをポケットから取り出した。
それを逆さにして、不可解な文字が描かれた腕に注ぐ。
「…なに、これ?」
「どうなってるの…」
すると、こすったわけでもないのに、見る間に文字が消えていく。
先ほどあれだけ爪を立てて掻き毟って、それでも掠れすらしなかった文字が。
一本ボトルを開けるころには、二人の腕には文字の片鱗すらもう見えなくなっていた。
驚きを以て顔を上げるが、彼は何も答えない。
「…別にね、二人を助けに来たわけじゃないんだ」
この場にそぐわないくらいに明るく言ったのは、末っ子と思しき少年。
小型のノートパソコンを抱えて、にこりと笑う。
硬質なガラスの向こう、茶色の瞳がすぅ、と細くなる。
「おれたちの仕事はね、君たち二人を誘拐した人間の――抹殺」
…ふ、と。
血の匂いが香ったのは、気のせいだろうか。
目眩すら覚えて、風姫は一度強く瞬きをする。
それに気付いたのか、かれは ひらひら手を振った。
「だからまぁ、君たちを助けるのは副産物?大丈夫だよー、危害は加えないから」
「任務にないからな。安心して良い」
「…そう言われても、ね」
蓮はちいさく笑った。
言われたところで、そうそう簡単に警戒心が解けるわけではない。
知らぬ間に閉じ込められて、力すらも封じられて。
そこに突然現れた人間を信用していいかどうか、瞬時に判断がつくものだろうか。
ヘタを打てば、殺されるかもしれない。
そう思わせるような何かが、彼らにはあるような気がした。
そう、今だって。
意識せず後ろに引いた足すら見抜かれて、惑う。
「…(あぁ、だけど)」
腕の文字を消したところを見ると、彼らは自分たちの『力』のことを知っているのだろう。
神という名の化け物に愛されたが故の、異形の力。
封じてしまえば自分たちはただの子供だ、だけどそれを敢えて解いたのだから。
そこに意味だって、隠れているのかもしれないと。
信用すべきか、否か。
知らず噛んだ唇、じわりと血の味がにじむ。
「…分かった」
けれど、蓮よりも先に判断を下したのは風姫だった。
彼女はふわりと両手を広げる。
見つめた瞳は穏やかですらあって、その事は少しだけ兄弟たちをも驚かせた。
「その口調だと、あたしたちのこと知ってるんでしょう?」
彼女が指すのは化け物の、それ。
凶器もなく、一瞬で世界を壊せる力のことだ。
真っ先にあの文字を消したのだ、知らないと言えば嘘だろう。
知っていてそれを解くというならば、それでもう十分なのではないだろうか?
あっさりと腹をくくった彼女を、少年が笑う。
「おねーさん、潔いね?そういうのおれ、好きだよ」
「ふふ、ありがとう。ねぇ、それで知ってるの?」
「ま、調べてはある…ってとこかな」
「すごいね、最近のパソコンってそんなことも調べられちゃうの?」
「おれのは特別なの」
気の抜けたような会話に、蓮もひとつ息をついて。
降参でもするように、軽く手をあげた。
無理やり理論に感情を追いつかせた感じは、否めないけれど。
風の女王が審判を委ねるというのなら、蓮にだって異論はない。
実際彼らが来てくれなければ、自分たちの力だってこの身には帰ってこなかったのだろうから。
悪魔だろうと天使だろうと、縋るよりほかにないのなら。
その手を取ることは、間違いではないのだと思う。
「とりあえず、お礼を言うよ」
「副産物だけどな」
「それでも良いよ」
頑なに彼らを助けたわけではないのだと強調する、ピンクの髪の少年。
それを聞いたらなんとなく頬が緩んで、ようやく蓮も笑う。
「…ありがと、助かったよ」
自分たちこそが異端なのだ、どうして彼らを責められよう?
微笑んだ先に向けられた笑み。
そこに温度が宿っていないなどとは、言わせるつもりもない。
「…とりあえず、此処から出ないか」
空気がほころんだことを見て取ってか。
長男らしき青年が言う。
その言葉に頷いて、おおよその出口の方向を組み立てた時だった。
「!」
カツン、と響いた足音。
それは真っ直ぐにこちらに向かってくる。
「…君たちの、仲間?」
「まさか。おれたちは三人だけだよ」
瞬時に緊張の糸を張る。
各々の武器を確認した、その時だ。
「手を上げてください、軍部です」
――かつり、と。
一際高い靴音を立てて、『彼ら』が舞台に加わった。
とりあえず前半戦。
神様の子供と三兄弟の邂逅です。
以前書いた「歯車、ひとつ」とはまったく関係ないです。
ほんと読む人に優しくないサイトですみません…!
しかも後半戦書いたらまた続かないっていうね。
…時計塔の金魚姫。は書きたいものを書きたいだけ書くサイトです(開き直った!)