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書きたいものを、書きたいときに、書きたいだけ。お立ち寄りの際は御足下にご注意くださいませ。 はじめましての方は『はじめに』をご一読ください。
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    祝宴の縁。

    ※嘘つき卯月、の続き。



    傍らに、慣れない他人の気配。

    「…っ!?」
    「あ、ごめんね起しちゃった?」

    咄嗟に枕の下の武器を確かめつつ跳ね起きる。
    と、そこに居たのは――

    「蓮…と、風姫…」

    自分たちの生業をこれっぽっちも気にすることなくじゃれついてくる、恋人たち。
    三兄弟にとって、希少で貴重な友人だ。

    「なに…お前ら、なんで…!?」

    かれど青はまるで乙女のように布団を胸まで引き上げ、ベッドの端に逃げる。
    …如何せん女の子という生き物に耐性のない彼は、風姫が普通にベッドサイドに座っていることにちょっと動揺を隠せない。
    しかも、自分が今着ているのは思いっきりジャージだ。
    あわあわと見るからに慌てふためいている青を、風姫が茶化すように見つめる。

    「…なんか、あれだよねー。青くんあたしのこと嫌いだよねー」
    「べ、別にそんなんじゃねぇよっ」
    「だって氷雨ちゃんとは普通に話すじゃない。風姫さん淋しー」
    「いや、あいつは…」

    何と言うか、氷雨はどちらかというと感覚が彼女の恋人である優に近い。
    淡々とした口調や、見返す瞳の温度。
    そういったものが似ているせいか、あまり『オンナノコ』らしくないように思うのだ。

    氷雨は青に対して、人間として以上の興味を持っていない。
    そこまで他人に興味を持たないのはどうかとも思うが、ある意味でそれはひどく楽だ。
    それを視線の端々で感じるからだろう、青は氷雨相手だとさほど気負わなくて済む。

    今まで大人しく二人のコントめいた会話を聞いていた蓮が、不意に口をはさむ。

    「ちょっとー青?風姫は僕のだからね、あげないよ?」
    「お前今までの遣り取り聞いてた!?」

    どこをどうしたらそういう流れになるんだ。
    ツッコミはが追い付かないのは、熱のせいだけじゃない。

    「つぅかいらねーよ別に…!」

    人のモノを奪う趣味はないし。
    そう告げると、けれど蓮は不満げに唇を尖らせた。

    「なぁに、それ。僕の恋人は魅力に欠けるとでも?聞き捨てならないねそれは」
    「(もうやだコイツ扱いにくい!)」

    もしかしたら藍よりタチが悪いかもしれない。
    信じてもいない神に祈るように青はぐったりとうなだれる。

    …自分の周りは個性が豊かすぎる人間しかいないのは、気のせいだろうか?
    もちろん彼もその中の一人なのだけれど。

    ぽん、と蓮が手を打つ。

    「まぁ、前置きはこのくらいにしといて。ちゃんとお見舞いしようか風姫」
    「そうだねー」
    「え、前振りながっ!?」
    「いろいろ買ってきたんだよ。なに買っていいかちょっと分からなかったんだけど…」

    青のツッコミを華麗にスルーして、風姫が自分のカバンを引きよせた。
    彼女のカバンは、肩から提げるトートバック。
    …お見舞いに持ってくるにしては、明らかに、デカイ。

    「いろいろ…?」

    青の頬が、嫌な予感にひきつる。
    なんていうか、藍のイタズラと似たにおいを感じる。
    ただし藍は計算でそれをやるが、彼女の場合は天然だってことで。

    「うん。えっとねー、ポカリとゼリーとプリンとアイスと、あと林檎でしょ?それから苺とね、生姜と…ネギ」
    「おいこらちょっと待て」

    嫌な予感は的中。
    っていうか、ネギがのぞいてる時点で可笑しかったのだ。
    風邪をひいてるのも忘れて突っ込むと、風姫はきょとんと首を傾げる。

    「え、だって風邪ひいたときは水分がいるでしょ?食欲なくてもゼリーとかなら食べられるかなーって。それにビタミンはとった方が良いし、生姜とネギは…なんか、定番…?」

    なんの定番だ。
    お見舞いの定番とか言ったら、彼女にその教育を施した人間をちょっとどうにかしてやりたい。
    それにしたって、お見舞いに持ってくる量じゃないと思う。

    「あ、大丈夫!アイスはちゃんと蒼さんに冷凍庫に入れてもらったから!」
    「問題はそこじゃねぇ」

    どうしよう、どうしたらいいんだろう。
    未だかつて標的とさえこんなにも深い断絶を感じたことはなかったのに。

    何分彼女の容姿が一切の甘味をそいだドールフェイスなので、なんだかギャップについていけない。
    ただ、それを言うともう一方の友人である氷雨だってギャップの人ではあるのだが。
    ほんとうに、二人の性格を入れ替えることができたらしっくりハマるのに…と、そうじゃなくて。

    「ていうか…蓮。お前、止めろよ…!」

    風姫のは天然でも、絶対に蓮は分かっていたはずで。
    目を向けると、くすくすと楽しそうに彼は笑っている。

    「だって、『青くんオレンジと桃だったらどっちのゼリーが好きかな』とか一生懸命悩んでるんだよ?それを無碍にはできないじゃない」
    「お前…!」
    「でねー、結局両方買って来たんだけど」

    大丈夫、どっちも美味しいよ。
    そう言われたら、なんかもうツッコミを放棄するしかなく。
    とりあえず、買ってきてもらったゼリー(桃の果肉入り)をありがたく頂戴する。

    「おいしー?」
    「…うん」
    「良かった」

    疲れた脳に、品の良い甘さが染み込む。
    …なんで疲れてるのかは、考えないことにして。
    これを食べたら、すこし眠ることにしよう。

    「じゃあ風姫、そろそろお暇しようか」
    「あ、うん。じゃあ青くん、お大事にね」
    「…おう」

    適当なタイミングで部屋を出てくれた二人。
    彼らの足音が遠くなるのを聞きながら、青はふと残された問題に気付く。

    「…これ、どうしよう…?」

    これ、つまりお見舞いに貰った大量の品々。
    ポカリに、ゼリーやプリン、果物などなど。
    あと…うん、ネギとか生姜とか。

    「………」

    あとで兄を呼んで、片付けてもらおう。
    さすがにネギと一緒に眠りには落ちたくないし。

    「…まぁ、ただ」

    手段がだいぶ間違っていたけど、方向性としては正しかったわけで。
    酷く自然な顔をして、見舞いと笑う彼らのことを考える。

    本来だったら、伸べられるはずのない手。
    だけどそれに縋ることを、当たり前の顔で彼らは赦すから。

    たまにはこんなのも、悪くはないのかもしれない。
    桃の果肉の甘さばかりが、脳髄にとける。

    (ちなみに晩御飯は焼きネギでした)



    最後マジメな雰囲気にしてみました。
    でもラストの一文で台無しですね★(星じゃねぇ)

    愛されてます、次男。
    ただ、彼らの愛の向け方がちょっと歪んでるだけなんです(笑)
    愛はあるよ、愛しかないよ!!
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    嘘つき卯月。

    ※仮想世界より、お花見の後の話。
    風邪ひき次男。



    「けほっ…げほげほっ」
    「あーもう、青にーさんってほーんと期待を裏切らないよねー」
    「るせぇ…っごほごほ!」
    「良いから大人しく寝てろ」

    昨日の花見で、酔って薄着のままうとうとしていたのが悪かったらしい。
    お約束に風邪を引いた青は、弟に冷えぴたを貼られ兄にベッドに押し込まれ。
    つまるところ、だいぶ手荒い看病を受けていた。

    「でもまぁ、これでバカじゃないって証明されて良かったんじゃないの?」
    「藍…てめ、治ったら覚えてろ…?」
    「うん、忘れた!」

    それはもう爽やかに笑う弟。
    一回殴ってやろうかとも思ったが、今の彼じゃ多分かすりもしないだろう。
    ぐっと怒りを飲み込んで、不貞腐れたように青はふたりに背を向ける。

    「つか、なんで俺だけ…?」

    花見の席で彼と同じようにほとんど眠りかけていた氷雨は特に体調も崩さず。
    それどころか、つい先ほどまで見舞いに来ていたのだから不公平だ。
    彼女いわく『残念ながらわたしの恋人は過保護なので』とのことだ。

    『膝かけとか、マフラーとか。持って行けって煩いんですもん。結局上着も借りてたし』
    『大事に…されてるんじゃ、ない…か?』
    『青さん、その微妙な顔やめて頂けません?すごく切ないです』
    『えー、と…』
    『…まぁ、良いですけどね』

    告げる時の複雑そうな氷雨の表情がものすごく気になったのだが、突っ込める雰囲気ではなかったので。
    疑問は疑問のまま、青はなんとなく不服そうな顔を隠せない。

    風邪をひくと、感覚が鈍るから嫌なのだ。
    一瞬の判断力が生死を分けるこの世界で、神経を研ぎ澄ませておけないのは痛手だ。
    自分の身すらも守れないかもしれない不安と、焦燥。
    此処は安全だと分かっているのに、すこしだけ怖くなる。

    けれど、彼の心を暴くのはいつだってこの二人なのだ。

    「…とりあえず、薬飲んだら少し眠れ。無理して起きてると長引くぞ」
    「そうだよ、にーさん。大丈夫、なにかあったらすぐ知らせてあげるから」
    「…分かってるよ、」

    兄弟だから。
    それは単純明快で、何より深い理由。
    やっと落ち着いて呼吸を吐きだした青に、藍が華やかに笑う。

    「それに、あんまりぐずってると…」

    強制的に、オトす。
    言外にそう告げられ、青は思わず身震いした。
    …今の寒気は、熱のせいじゃない。

    「あははー、冗談だって!」
    「…お前が言うと冗談に聞こえないからやめてくれ」
    「えー、そう?」
    「藍、そろそろ寝かせてやれ」

    さすがに可哀想になったらしい。
    苦笑した蒼が、藍を促す。

    「おやすみ、青」
    「…オヤスミ」
    「良い夢見れると良いねー」
    「お前が邪魔しなければな」

    軽い足音と、ささやかな温度が離れていく感覚。
    蒼が藍の背を押して部屋を出ていく音を聞きながら、青はそっと目を閉じた。




    とりあえず前半戦…?後半は後日書きます。
    一応お花見の続き物のはず。

    氷雨さんは優が上着とかマフラーで完全防備してたから無事だったんです。
    身体弱い人ってそれなりに準備していくから意外に大丈夫だよね、って話(そうだっけ?)

    最近は気温がぐらぐらしていますので、皆様体調管理はしっかりとね!

    嵌らないピースふたつ。

    ※仮想世界にて。
    氷雨と藍のお話です。



    「あら、」
    「あ、氷雨ちゃん」

    珍しい場所で珍しい人物に会うものだ。
    藍と氷雨は互いに軽く目を見張ってから、手を挙げる。

    平日の昼過ぎの、ショッピング街。
    職に就いている氷雨がこの時間に買い物をしていることも、女性向けの店が立ち並ぶ一角に藍がいることも珍しい光景だ。
    そのまま別れるのも忍びなく、二人は人の合間を縫うようにして歩み寄る。

    「珍しいね氷雨ちゃん」
    「今日はお休みなんで。そういう藍さんこそ、どうしてこんな場所に?」

    もっともな疑問に彼は笑って。
    普通の女の子ならば少なからずドキッとするような、鮮やかな笑顔を浮かべてみせる。

    「んー、今日はおれも暇でさ。だから可愛い女の子でもナンパしちゃおっかなーって」
    「…そのうち刺されても知りませんよ?」

    一体何人の女の子が犠牲になったことやら。
    嘆くように氷雨は天を仰ぐ。
    藍が彼女の後ろ、誰かを探すように目を向けた。

    「あれ、今日…優さんは?」

    なんだかんだで仲の良い恋人だ、休みであれば二人でデートでもしていそうなものだが。
    今日は彼女ひとりだけのようで、右側は寒々しく空いている。

    「女の子の買い物に付き合わせられませんよ」

    気付いて氷雨はくすりと微かな笑顔を向けた。
    女の子とは、買い物になにかと時間がかかる生き物なのだ。
    幾つかの品物を見比べてみたり、また元の店に戻ってみたり。
    それでいて結局買わなかったり、あるいは全然違う品物を買ってみたり。
    とかく時間と体力を必要とする女の子の買い物に付き合うのは、なかなか厳しいものだろう。

    「へぇ…?」

    だけどそれは一般論。
    これほど人によるものはないような気がする。
    いつだって余裕を含んだ目をした優を思い出して、藍は腑に落ちない顔をした。

    「疲れさせちゃうし、悪いじゃないですか」
    「ふーん。優さんなら気にしないと思うけどねー」
    「わたしが気にするんです」

    彼のことだから、買い物に悩む彼女を微笑ましげに眺めるだろうけど。
    それはどうにも氷雨のプライドが許さないらしい。
    見た目によらず頑固で強情な友人に、藍は笑みを隠せない。

    「…なんです?」
    「ううん、別にー」

    まったく君は素直じゃない。
    自分こそ到底素直といえる性格はしていないのに、藍はそう呼びかける。

    当然不服そうな顔でこちらを見上げた氷雨に、にっこり笑った。

    「じゃあ、おれが買い物付き合ってあげるよ」
    「へ?」

    そう言うと、返事も聞かず氷雨の腕を取る。

    「ちょ、藍さん?」
    「明らかにひとりはつまんないって顔してたよ。だからおれが付き合ってあげる」
    「でも、」
    「おれなら青にーさんと違って良いアドバイス、してあげられると思うよ?…例えば、」

    そこで、にやりと笑って。
    明らかにイロイロ内包した笑顔に、一瞬警戒する。

    彼がこんな顔をするときは、だいたいにしてあんまり良くないことを考えているときなのだ。

    「例えば、優さん好みのお洋服、とか。教えられるけど?」
    「う、」

    ほら、やっぱり。
    氷雨は思うが、提示された内容は蹴るにはあまりに惜しい。
    どんな格好をしても、彼はにっこりと笑って「可愛い」という。
    なおかつちゃんと見ていると思わせる丁寧な誉め言葉を添えて。
    だから未だに氷雨は優の好みを知らないのだ。

    ただ乗ってしまえば後々からかわれるのは必至で、彼女は似合わない唸り声をもらす。

    「…ねぇ氷雨ちゃん、おれってどんだけ信用ないの?」
    「それは藍さんの今までの行動その他諸々のせいですよ」
    「へー、そういうこと言う?」
    「うわぁ悪そうな顔っ」

    大げさな身振りで一歩引いた彼女を、藍は苦笑まじりに見た。
    年相応な笑い方。
    いつもこうやって笑っていれば可愛いのに、と氷雨は思う。

    「良いから、ほら。それに今日のおれの予定は可愛い女の子連れて歩くことだったし」
    「えーと、わたしこれどこに突っ込めば?」
    「だから氷雨ちゃんなら資格じゅーぶん、利害関係は一致したんだから行くよっ」

    もう一度手を取りなおして、今度こそ藍は歩き出す。
    一瞬悩むような間があったが、大人しく彼女もついてきた。

    「…たまに藍さんってイイ男ですよね?」
    「たまに、は余計だよ」
    「ふふ」

    失敬な、と藍は思うが氷雨の笑い声に溜飲を下げる。
    いつもこうやって笑っていれば可愛いのに、氷雨が聞いたらものすごく微妙な顔をしそうなセリフを考えて。

    「…お互い様かなぁ」
    「どうかしました?」
    「んーん、何でも」

    ふざけて、からかって。
    憎まれ口なんて日常茶飯事。

    「「…(あぁ、だけど)」」

    君の隣は、なかなかに居心地がよく。
    わかっているから笑うよ、何もかも見透かした目を互いに向けて。

    (さぁ、お買い物に参りましょうか)




    ケータイでぽちぽち打ってたんで、編集するまで未選択になってますがお許しを。
    たぶんやり方はあるんだろうなぁ…探します。

    関係ないですが肩こりが酷くて泣きそうです\(^o^)/
    …肩こりはロマンがないよ(何の話)

    春の宴に。

    ※お花見ネタ。
    前回のお話とは関係ありません。


    ひらりひらり。
    はらりはらり。
     
    舞い落ちる桜の花びらが、掲げた杯の中に落ちて。
    澄んだ美酒を、あわい桜の色に染める。
     
    今宵は宴。
    春の亡霊だって、きっと微笑むような夜。
     
    +++
     
    「ちょ、藍てめぇ!それ俺のたこ焼きだっつーの!!」
     
    最後に残ったたこ焼きを弟に奪われて、青は叫び声を上げた。
    それをものともせず、藍はつんと顔を背ける。
     
    「知らなーい。だって名前書いてないしー」
    「たこ焼きに名前が書けるかぁ!」
    「そこはほら、頑張りなよ。にーさんならできるって!」
     
    騒がしく(青が一方的に騒いでいるだけなのだが)言い合いを始める兄弟たちを見上げて、蓮が迷惑そうに二人の足元のカップを寄せる。
     
    「ちょっとー、二人とも暴れて飲み物倒さないでよ?」
    「蓮さん、気にするところはそこでしょうか?」
     
    微妙にずれた発言に氷雨がツッコミを入れるが、蓮は優雅に笑うだけ。
    分かっているんだなと察した氷雨は肩をすくめて、手の中のカップを揺らした。
    二人の頭上、青が投げた空の紙カップが横切る。
     
    「つぅか藍お前いっつも最後の一個奪いやがって…!」
    「えー、にーさん細かい。そんな細かいこと気にしてるとはげるよ?」
    「はげねーよ!」
    「あ、ほらこの辺がちょっと薄く…」
    「えっ、嘘!?」
     
    はげに過剰反応するのは男の性。
    咄嗟に指さされたあたりを押さえた青、それを見て藍が高らかに笑う。
     
    「うっそだよー。なーに本気にしてんだよにーさんっ」
    「藍…お前…!!ぜってー泣かす!」
    「なーに、やる気?受けて立つよっ」
    「ちょっと、お二方?落ち着いてくださいよ、危ないですし…」
     
    氷雨が立ち上がりかけるが、聞く耳持たず。
    いまにも取っ組み合いの喧嘩が始まると思われたのだが。
     
    「もー、二人とも!」
    「「!!」」
     
    ぱこん、ぱこんと軽い音が二回。
    振りかえった二人を怒ったような眼で見つめていたのは、今まで大人しく酒を飲んでいた風姫だ。
    彼女は腰に手を当てて、さながら母親のように二人を叱りつける。
     
    「めっ!!」
    「…はい」
    「すんませんでした…」
    「分かればよろしい」
    「あー…普段怒らない人間が怒ると、それだけで脅威だよねー」
     
    その様子を見ていた蓮が、ふすりと笑う。
    最初からぜんぶ分かっていたような表情。
    これ見たさに蓮が二人を止めなかったのだと分かって、氷雨は心底からため息をついた。
    切なそうな表情で空を仰いで、さながら悲劇のヒロインのように呟く。
     
    「…どうしてわたしの周りってこんなに性格の悪い人間が多いのかしら?」
    「ねぇ氷雨さん、類友って知ってる?」
    「あら、存じ上げませんけれど」
     
    にっこりと笑った顔はまるで鏡。
    風姫、藍、青の三人は、何も言わずにそっと目を逸らした。
     
    お前らがまさにその言葉を体現している。
    …そんなこと、口が裂けても言えないけれど。
     
    +++
     
    「やー、若いって良いねぇ」
    「…優も十分若いだろう?」
     
    それをさらに一段離れたところで見ていたのは、年長組の二人。
    優と蒼だ。
    ふたりは微笑ましい(かもしれない)光景に、目を細める。
     
    「ふふ、そうでもないよ。もうおっさんだよ?俺」
    「そうか?そうは思えないが」
    「…どーせ俺は童顔ですよっ」
    「そんなことは言ってないさ」
     
    童顔、というよりは品の良い綺麗な顔立ちをしているせいだろう。
    なんとなく青二才、という印象を与えがちな優は、実は大人びた顔立ちの蒼が羨ましかったりもするのだ。
    桜色の酒をすすり、微笑んだ口元はあわく。
     
    「でも、なんだか夢みたいだな」
    「夢?」
    「こうやって、桜の下で酒飲みかわしてると」
     
    言われてみれば、確かにそうだと優も思う。
    朧な月が桜越しに光り、冷やされた風に花が散って。
    すべてが一吹きでかき消えそうな世界。
    嗚呼美しいな、とぼんやり思う。
     
    「…俺としては、この場所にこうしてみんなでいられることが夢みたいだけどね」
    「あぁ…そうだな」
     
    本来であれば、交わることのなかった世界。
    それがこうして交差して、柔らかな音楽を奏でるのだから。
    なんとも素晴らしい話ではないか?
    居るかも分からない神に、感謝してやってもいいと思えるくらいには。
     
    「…乾杯とか、する?」
    「そうだな、この世界に」
     
    合わせた杯に、二人で笑って。
    それから、落ち着きを取り戻した他の面々に目をやる。
     
    「…あのさー、いっこ疑問なんだけど」
    「どうした?」
     
    まぁ、さすがにこの二人は二十歳を超えているだけあって。
    彼らが酒を手にしている様子には違和感がない。
    すい、と丁寧なしぐさで杯を空けて、優が問うた。
     
    「…俺たち以外、みんな未成年のはずだよ、ね…?」
     
    めぐらせた眼差しは、すでに諦めすら映している。
     
    「あ、見てみて。水面に月が映ってる」
    「ほんとだ。綺麗だね」
    「こういうの、月を呑むって言うんだっけ?風流だよねー」
     
    視線の先。
    そこはさっきまでの騒がしさが嘘のように、穏やかさを取り戻している。

    「美味しい」
    「ね」

    それこそ水でも飲むようにさらりと酒を飲みつつ談笑しているのは、風姫と蓮と藍の三人。
    …断わっておくと、こいつらはこのメンバーの中で最年少。
    当然のことながら法律上酒を飲んではいけない年齢のはずだが、彼らは気にした様子もない。
    先ほどから顔色ひとつ変えずに、結構な度数のアルコールを淡々と消費している。
     
    「…酔うって概念がないのかもしれないな」
    「そんなあっさりと…!」
     
    残念な蒼の回答に、優はそっと眼を伏せた。
    けれど、本来だったら真っ先にこれをいさめるべきは軍人である優だったりもする。
    自分のことはがっつり棚に上げているのは公然の秘密だ。
    …良い子はマネしちゃいけません、えぇ絶対に。
     
    「…おや、」
     
    さらに視線をスライドさせて、蒼が意外そうな声を漏らした。
     
    「ん?…あー…」
     
    同じものを見て、優も笑った。
    さっきから急に声が聞こえなくなったとは思っていたが、あぁまさに予想通り。
    二人が膝を抱えて、幼い子供のように無防備な横顔をさらしている。
     
    「…氷雨ー?ここで寝ちゃだめだよーさすがに」
    「寝ませんよー…」
     
    「…青、起きろ。酔いつぶれるにはまだ早いぞ」
    「うっせー…酔ってねぇよ…」
     
    ぼんやりと、眠たげに。
    明らかに酔いのまわった眼をして、氷雨と青は頼りなく頭を揺らした。
    一応受け答えはしているけれど、次第に生返事になっていくであろうことはたやすく予想がつく。
     
    「…え、何これ?つぅか、誰?」
     
    藍が頬を引き攣らせたのも無理はない。
    氷雨の鉄壁笑顔の仮面も、青のくるくるとよく変わる表情も。
    今はすっかりなりを潜めていて、まるで別人だ。
    恐ろしいものでも見るような表情で、藍はそっと後ずさりする。
     
    「…なに、この二人ってお酒弱いの?」
    「えー、なんか可愛いねぇ」
     
    逆に、蓮と風姫が新鮮そうに笑う。
    もっとも不気味なくらい酒に強い二人から見たら、酔うこと自体が不思議なのかもしれない。

    「んー、強くはない、ってとこ?」
    「だな」
     
    ものすごく意外なことに、この二人はアルコールに強くはない。
    …まぁ周りが強すぎるというのもあるけれど。
    それでも、平均よりはずっと弱い体質なのだろう。
    今日だって、楽に杯数を重ねている藍たちの隣で、二人はそれぞれ一本か二本飲んだ程度だ。
     
    微笑ましい、とはきっとこういう事を言うのだと思う。
    慣れた手つきで、蒼は弟の頭を撫でてやる。
     
    「…とりあえず、こいつらが風邪ひかないうちに帰ろうか」
    「あ、じゃあ車呼ぼうか。うちに来なよ、それ抱えて帰るの大変でしょう?」
     
    わりと庶民的なので(今日だってさきいかとか食べてた)忘れがちだが、一応蓮は良いところのおぼっちゃまだ。
    さらりと出てきた車を呼び付ける発言に、思わず藍と優が目を丸くする。
     
    「わー…初めて聞いた、そのせりふ…」
    「ドラマの中だけだと思ってたよ」
    「…なに、今のって僕バカにされた?もしかして」
     
    一度不満げな顔をするけれど、すぐにそれをほどく。
    怒ってなどいないのだ、ただこのやり取りが楽しいだけで。
    けれど、電話でいちばん良い車で迎えに来るように言ってやろうと思ったのは内緒だ。
     
    「ほら、氷雨?おいでー、おんぶしてあげるから」
    「歩けます…だいじょぶ…」
    「うん、歩けないよねー無理しないのー」
     
    「離せよ…一人で歩けるッつの…」
    「ねぇ蒼兄さん、中途半端に意識あるとうざいからこれ、オトして良い?」
    「………やめてやれ」
    「今の間は何?」
     
    「…ねぇ、蓮?」
    「なに?」
    「…きれいね」
     
    それぞれの会話に耳を傾けていた風姫が、楽しそうに微笑んで顔を上げた。
    つられて蓮も微笑みを返し、彼女の見ている世界を見つめる。

    「…そうだね、とても」

    眼前に広がる世界。
    桜は万開で、月は高く。
    空気すらも甘くて、どこか優しくて。

    「(あぁ、願っても良いのなら)」

    彼らを取り巻くすべてが、幸福で在ればいいと思うのだ。
     
    +++
     
    ひらひら、はらはら。
    風に舞い上げられた桜の花が、雪のように降り注いで。
     
    微笑んだ彼の耳元。
    春の亡霊が、囁いた。

    (果てなき春の宴)



    …なっがー!(お前)
    なんかネタいっぱい詰め込んだらすごい長くなった…でも後悔はしてない。
    椎さんがすごいプッシュしてたお花見ネタです。
    この時機逃したらもう書けないからね!必死だったよ。

    歯車、ひとつ。

    ※シリアスバージョン出会い編。
    蒼兄さんと氷雨さんの邂逅。




    「あなた…何、ですか…?」

    意識とは無関係に足が竦むのを、止められない。
    カノジョ――氷雨は、今すぐ目を逸らしてしまいたいのを必死に堪えて小さく喉を鳴らした。

    「…何、とはずいぶんだな、お嬢さん」 

    彼女の視線を受けて、髪の長い男がくすりと笑う。
    それすらも彼女の恐怖心を細やかに撫でていくようで。
    本能で、怖いと思った。
    相手の実力が見た目どおりとは、到底思えないからだ。

    狼が羊の皮をかぶっているような。
    あまりにも強烈な、違和感。
    目の前にいるのに、気配が妙に希薄なのだ。

    笑う膝を叱咤して、努めて冷静な声を出す。

    「失礼を。…ですが一般人は、もう外に避難したはずですよ」
    「あんまり人が多いから、別の出口を探してたんだよ」
    「別の出口、ですか…?」

    パーティ会場で、いきなり煙が上がった。
    警報機が鳴り響き、一瞬にして騒然となった会場。
    出口に殺到した人間をやっとのことで外に誘導して、氷雨は再び場内に戻って来たのだ。

    スプリンクラーが作動し、ずぶ濡れになった会場はもう自分の仲間が封鎖したはずだった。
    だからここには軍部の人間であるという証がなければ入れない。
    なのに――彼は平然と、此処にいたのだ。

    この…異様な雰囲気を纏った、男。
    …否、一見しただけでは彼は普通の青年にしか見えない。
    けれど、普通でない場所に普通の顔をして立っているのは、それだけで異常で。
    すべて理解した上でなおも普通の人間のように振る舞える彼らの事が、彼女は恐ろしくてたまらない。

    「(…普通じゃ、ないわ)」

    あれだけの騒動の中、平然と此処に残っていられることが。
    直後の会場はまさに地獄絵図。
    恐怖とパニック、何が起きているか分からない不安と焦燥。
    それらが混ざり合って、収集がつかなくなっていたのだ。
    それなのに――どうしてここにいられる?
    上がった煙の原因すらも、まだ分かっていないというのに。

    「お嬢さんこそ、何をしてるんだ?こんなところで」

    人好きのする笑顔とともに問われる。
    微笑むとその顔は予想外にあどけなく、自分とさほど年も変わらないように思えた。
    もっとも、それで油断できる人間がいたらお目にかかりたいものだけれど。。

    「…わたしは、軍人ですから」

    彼女は今日ここの警備の為に派遣された軍人だ。
    要人が出席するため、万全の注意をと言い渡されていた。
    …もっとも、彼女は扉の前に居たため騒動に気付いたのは少し遅れてからだったのだが。
    にこ、と青年は楽しそうに笑う。

    「軍人さんにこんな可愛らしいお嬢さんがいるとはな」
    「…それは、どうも」

    言いながら、そっと隠してある銃に触れた。
    あまり射撃の腕に自信はないけれど、この距離なら。
    そう考えてはみるけれど、絶対に自分では彼に傷一つ付けられないだろうという嫌な予感だけはしていた。

    「(…此処から、ださなきゃ)」

    彼の身を案じているのではない。
    このままこの男を放っておいたら、とんでもないことになるような気がしたのだ。
    嫌な予感というのはたいがい当たるものだ、幸か不幸かは分からないけれど。

    「出口ですよね?でしたらどうぞこちらへ――」

    言って、身を返しかけた刹那だった。
    唐突に、照明が落とされる。

    「っ!?」

    何も見えない。
    暗闇に恐怖を誘われて、首筋に鳥肌が立つのを感じた。
    彷徨う掌、不意に耳元に声が飛び込む。

    「…すまないな」
    「え、」

    ちいさな謝罪と、頬に触れる風。
    逃げられたのだと理解して、顔から血の気が引いていく。
    掴まえなくちゃ、咄嗟に腕を伸ばすが、つかむものは宙ばかり。

    「待って、」

    次の瞬間、光が戻ってきた。
    急な明暗の変化についていけず、目を瞑り顔を覆う。
    それでも無理やりに目をこじ開けて、あたりを見回すが。

    そこに居たのは、彼女ひとり。

    「っ…、どこ、に…?」

    どこに行ったの。
    広い会場にはもう彼女しかいなくて、隠れる場所もないはずで。
    あんな短い時間で、ねぇどこに行けるって言うの?

    「…探さなきゃ、」

    唇を噛んで、床を蹴って。
    走り出した彼女の背後。
    ――そうして、歯車がひとつ噛み合った。

    (廻る、巡る、作られた運命の輪が)

    (笑うのは運命の女王か、それとも)



    だいいちだーん。
    なんかも、書きたいものが溢れすぎて形になりません。
    もっと巧く書ける気が…いや、わたしの文章力じゃたかがしれてるけども!!

    そのうち書き直しますが、とりあえずは萌えが暴走したってことで赦してください…!!

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    自己紹介:
    動物に例えたらアルマジロ。
    答えは自分の中にしかないと思い込んでる夢見がちリアリストです。
    前向きにネガティブで基本的に自虐趣味。

    HPは常に赤ラインかもしれない今日この頃。
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