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扉を蹴った音が響く。
しばらく名残のように震えていたが、それも終わると再び当然のようにその鉄扉は沈黙した。
彼女は諦めずもう一度その華奢な足を引き上げるが、隣の彼がそれを留める。
除染何度やったところで、この扉が彼らの力では到底開けられないことはもう分かっている。
「くそー…」
「女の子がそんな顔しないの」
余裕を持った声に聞こえるが、彼の足もとには噛み千切られた爪の欠片が散らばっている。
いらだった時の彼の癖で、じきに指まで噛みだすことは予想が出来た。
その前に止めてやらなきゃな、と彼女も彼女でぼんやり思う。
「…それにしても、笑ってしまうね」
皮肉げに彼が吐き捨てた。
日に当たらないせいで生白いままの彼の左腕には、青く何かの文字が書かれている。
こういった古代文字めいたものは読めないので真相までは分からないが、おそらくこれは彼のエレメントを封じる水。
そして彼女の細い腕に巻きつけるように書かれた琥珀色のそれは、風に動じぬ土のもの。
こんなもので偉大なる『神様の愛し子』の力を封じられてしまうのだから、ずいぶんとちゃちだと彼は笑う。
「…そうね、せめて『これ』が無ければね」
「そうしたらこんな扉、一瞬で壊してやるのに」
否、一瞬すらもいらない。
もっと短い時間で良い、それだけでこの扉なんて文字通り消滅させてやれる――力が、使えたら。
なにがあったところでこの力があるからどうにかなると。
高をくくったのがそもそもの間違いか。
人間離れしたこれを封じられてしまえば、体力も戦闘力も一般人より劣るただの子供にすぎない。
情けないな、と嘲笑をもらしたのはほぼ同時だ。
「…どうする?」
「わざわざ『こんなもの』用意するんだ、狙いは僕たちだろう?」
普通の人間なら、考えないような。
エレメントに精通した人物の仕業だろう、思い当たる節がないのが恐ろしい。
首筋に走った寒気に気付かないふりをして、彼女は明るい声を出す。
「さっくり殺さなかったあたりが怪しいよね」
「いや、いたぶって殺すつもりかもよ?」
「あーでもあれかな、きみの泣いて懇願する様ってちょっと見てみたいかも…普段気丈な人間が泣くのってそそらない?」
「…そっちこそ、啼いて懇願させてあげようか?個人的には君の泣き顔の方が見たいんだけど」
くだらない会話だ。
だけどしていないと少しだけ、怖い。
彼女は扉の向こうに意識を向けて、こちらに向かってくる足音がないことを確認する。
「…あぁ、でも」
急に彼が顔をあげ、彼女その視界に入れて微笑んだ。
その微笑に、彼のつむぐ次の言葉が彼女には分かってしまう。
「「…大丈夫(だ)よ」」
重ねたのは、同じ言葉。
一度だけ彼は驚いた顔をして、けれどすぐに察してわらう。
我儘で、利己的な。
けれど愛に満ちた、と言ったらキミは泣いてしまうだろうか?
「「キミのことは、あたしが(僕が)守るから」」
あぁ、だけどどうか。
それを聞いたキミが、笑ってくれれば良いと心から思った。
『彼と彼女。』無意味にシリアス。
お題消化作品。
そして続きません(笑)
当然他のSSとも関係ないです。
あぁでも久々にこういう文章書いたら楽しかった…!!